あなたが好き。だから…

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 背中を撫で、少し落ち着かれたのでしょう。 「どうしてここに?」  天童さまの声は涸れております。 「思い出を辿るうちに気付けばこちらに」 「思い出?」 「天童さまとの思い出ですよ」 「私との? 私の事などとっくに忘れているかと」 「あ! わたくしお礼も言わず失礼でしたよね」 「破談の礼ですか?」 「え?」 「え? 小夜さんなら殿方からの申し出が尽きないでしょう」  天童さまの言葉に愕然としました。わたくしは天童さまにとってどうでもいい女だったようです。 「ひどいです」  天童さまに会えて嬉しいのに、天童さまの言葉に傷付いて涙が溢れます。子どもみたいに泣いたらまた嫌われると思っても涙は止まりません。 「小夜さん?」  天童さまがオロオロされてますが、わたくしは子どもなので大人の方を慮ることなどできません。  わたくしは天童さまに会えなかった間、心の中にふり積もらせた思いを恥ずかしげもなく吐露します。 「魅力の欠片もない子どもですがっ、それでも天童さまのことをお慕いしておりましたのにっ、なのに破談なんて……、好きでもない女に紅など贈らないでくださいっ! とても嬉しかったのにっ!」 「小夜さゲホッ」 「天童さま?」  続く咳に背中を擦ると逞しく見えていた背中は小さくなったように思えます。 「……寡婦になどならなくていいのですよ」  息も絶え絶えに天童さまはそうおっしゃいます。 「カフ?」 「年若い乙女である貴女が私のせいで未亡人になるなど許せません」 「それはどういう事でしょうか?」 「聞いてませんか?」 「何を?」 「破談にしていただいた理由を」  そういえばお祖父様に理由を聞かぬのかと言われた気がします。 「……聞いて……おりません」 「では私の口から申しましょう」
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