卯月双子姉妹

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 そして今日の午前から昼にかけて、来年度の入学生対象の説明会だ。 と言っても、私たちはいつものように練習三昧なんだけどね。  説明会で私たちの良い宣伝になればと思い、部室の隣の礼拝堂で練習をすることにして、祭壇の前で各々が譜面台を立てて楽器を準備していた。  ここに立つと、私自身が演奏する側になることを憧れていた時の事を思い出す。  ステンドグラスから漏れでる柔らかい光が、いくつかの信徒席の側面を輝かせて、それが反射して幾何学模様に広がる天井で揺らめいている。  リンコ部長は、よくこの天井を見上げていたな。なんて事を思い出しつつ。  私は紺色のケースからリードの数を確認して、そこから一本を取り出して、その先を口に咥えて湿らせていた。  この前買ったリードは、いつものリコリードのコンサートセレクトじゃなかったせいか、一箱に十本入っているうちで、気に入ったのは一本だけで、あとは全部私には馴染まなかった。いまいち吹奏感に納得出来ないって言うか。  それから、試しにちょっと買ってみた樹脂製のリードは、あれは本当に私には合わなかった。やっぱりリードは葦を削ったものが一番だよ。  聴いてくれる方からすれば、音自体にはそんなに変化を感じないのかもとも思うけど、吹奏感が違うと言うことは、自ずと演奏内容も異なるわけでね。 まぁ、どんなコンディションでも、ちゃんと自分なりに演奏することが理想なんだけどね。
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