【第二話】ソウジフ

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 ソウジフは渇き切った目をしながら、辺りの蛞蝓に片っ端から塩をふりかけ続けた。これから6時間の持ち時間が終わるまで、視界に入った蛞蝓をひたすら殺し続けなくてはいけない。  目の前で啜り泣く生き物たちは、知能を持たず人の言葉を真似るだけの害虫に過ぎない。そう何度自分に言い聞かせても、その命を奪い続けることはソウジフの神経を苛み続けた。べったりとこびりつくような不快感は、蛞蝓たちの通った跡を光らせる粘液にも似ていた。  新しく庭園の蛞蝓担当になってから2週間も過ぎていないが、ソウジフは早くも自らの仕事を呪い始めていた。寮の掃除を担当していた時のことを懐かしく思い出す。  蛞蝓の駆除とは違い、ソウジフは部屋の掃除が嫌いではなかった。特に掃き掃除が好きだ。決められた動きを黙々と続けているだけで、確実に作業が進んでいく。少しの工夫を加えれば、その効率はさらに上がった。  例えば、湿らせた古新聞を床に散らして埃と一緒に掃き取る。水を吸った新聞紙が散らばる埃に引っ付き、ひと掃きで床が綺麗になるのだ。  勿論、数日経てば床はまた埃にまみれてしまうだろう。だが、駆除しても駆除しても無数に這い出てくる蛞蝓たちの相手をしているよりも、ずっと何かをしている実感を持つことができた。  どれだけ今の仕事が嫌いであったとしても、ソウジフにソウジフを辞めるという選択肢はなかった。  まず、食い扶持の心配がある。どちらも質が良いとはとても言えないが、2食のスープとベッドを備えた寮の自室を失うことは惜しい。  だが、ソウジフにはそれ以上に、この屋敷に居続けなければならない訳があった。
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