6人が本棚に入れています
本棚に追加
使用人用のIDパスを通し、大きく重い鉄の扉を開ける。暗闇に多少は慣れたソウジフの視界を、今度は外に漂う白い霧が遮った。ゆっくりと全身を包む霧は、じわじわと体温を奪っていく。
「お疲れ様ですぅ……仕事には慣れましたかぁ?」
霧の向こうの人影が、か細い声を上げた。ソウジフは無言で人影に向かって懐中電灯を向けた。
「何するんですぅ……眩しぃじゃなぃですかぁ」
霧の向こうで身を縮めた人影は「頭が痛ぃ……頭が痛ぃ」と付け加えた。間違いない。ソウジフの同僚だ。
「一応、この持ち場では私の方が長ぃんですからねぇ。少しは敬ってくださぃ」
抗議の声を上げた同僚は、すぐに「まぁ……こんな仕事、長くやってたってぃぃことなんかありませんけどねぇ」と卑屈に笑った。
無言を崩さないソウジフに、同僚は鼻を鳴らす。
「引き継ぎ事項はありませんよぉ。まぁ、強いて言ぅなら……連中はぃつもに増して元気ですねぇ。持ち時間を使ぃ切るだけで、精一杯かもしれませんよぉ」
同僚はそのまま「頭が痛ぃ、頭が痛ぃ……」と呟きながら、鉄扉の向こうに姿を消してしまった。ばたんという扉の閉まる音が、妙に大きく響いた。
ソウジフがしばらく立ち尽くしているうちに、霧は段々と薄まっていく。太い石柱が向こうまで立ち並んだ、灰色の回廊が徐々に姿を現しつつあった。
もう一度深くため息を吐いた。石柱の間をすり抜け、庭園へと出た。
ソウジフは、この仕事が大嫌いだった。
最初のコメントを投稿しよう!