【第二話】ソウジフ

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 ソウジフは、果てなく広がるこの庭園で働いている。持ち場は西の区域だ。  庭園の主は絶大な財力と権力を誇り『庭王』と呼ばれる人物だという。ソウジフは己の雇用主であるはずの庭王について、何一つ知らなかった。直接会ったことは勿論ない。  鬱蒼と茂る森の中をのろのろと歩く。ただでさえ視界が悪いのに、薄っすらとした霧が未だに残っていた。木々の隙間からは、立方体や直方体に削られた岩が顔を覗かせている。その高さはまちまちだが、概ねソウジフの腰くらいまであった。森の奥へと進むにつれ、周囲の岩は大きさを増していく。やがてそれらの中には東屋や灯籠、尖塔の形をとるものも出てきた。  立ち並んだ石の建造物やそれを取り囲む樹々。それらの根元がやにわに、ぼうっと発光し始めた。白く弱々しい光だった。光源はそこここを這い回る無数の蛞蝓たちだった。  この庭園に住み着いている蛞蝓は、ソウジフの知るそれとは色々と異なっていた。お屋敷に来る前に見た蛞蝓は全身が茶色っぽく黒い筋が走っていたはずだ。だが、ここの蛞蝓は薄っすらと白い色をしていて、曇りガラスのように微かに透き通った身体の中心は、内側から光っていた。また、サイズも通常のものよりかなり大きい。1匹の大きさは両手で一抱えできるほどだった。
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