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だが、何よりも異様なことがある。この庭園の蛞蝓は人の言葉を真似て『鳴く』のだ。勿論、人間と意志の疎通ができるわけではない。発せられる言葉は1匹につき、1語か2語ほど。それを擦り切れたレコードのように繰り返す。大半は啜り泣きを交えた嘆きの言葉だ。
「イタイ……イタイヨ」
「モウ……ダメ……クルシイ」
「タスケテ……ゲンカイ」
そんな鳴き声が、四方八方の足元からしくしくと聞こえてくる。そう、鳴き声だ。蛞蝓たちに言語を理解するだけの知能があるとは思えない。
『言葉を話す』とされる一部の鳥たちと同じように、庭園で働く人々が発する声の音だけを真似ているのだろう。そんな蛞蝓の話をソウジフは今まで聞いたことがなかったが、それを言うなら内側から発光する巨大蛞蝓の話も聞いたことがなかった。
それに、陰気な鳴き声を上げ続けるこの庭の蛞蝓たちが珍種であろうと、新種であろうと関係ない。ソウジフにとって重要なのは、今度の仕事が『蛞蝓の駆除』になったということだけだ。スコップにぎっしり詰まった塩をスコップで掬い上げる。すぐそこの足元を這っていた蛞蝓の全身に振りかけた。
「シヌ、シヌ……」と呟くように発していた蛞蝓は突然「ギュッ……」という悲鳴をあげると、2本の触角状の目を苦しげに交差させた。それも長くは続かない。やがて、諦めたように両目をだらりと下げ、足元からでろでろに溶けていく。そのまま10秒も経たないうちに、本当に死んで白い水溜まりになってしまった。
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