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「ナナセきもい」
にやにやと僕の顔を真正面に捉えて暴言を吐く。僕のことを「ナナセ」と呼ぶのは明楽。ショートヘアーに細めの体格。くるぶしまでの靴下をはいているのか、スカートから伸びる素足が折れそうなくらい心もとない。167㎝の僕よりも数センチ高く、いつも僕のことをイジってくる。
そんな明楽の座り方が雑でスカートから覗くパンツに目を奪われているわけではない。断じてない。そうやって毎回反応を見てイジってくるのだ。今は放課後だから僕たち以外誰もいないが、他の男子がいるときはもちろん、女子がいるときも本当にやめて欲しい。
ちなみに七成を明楽が読み間違えたせいで、僕はクラス内でナナセと呼ばれている、天希を除いて。
「どうして素子ちゃんと別れちゃったの?」
「明楽、さっきその訊き方は七成の傷口に塩だからダメだって」
諭すような物言いなのが天希。明楽よりも長い髪でうざったそうにしているがなぜか切らない。弟と妹がいるからだろう、面倒見のいい性格だがよく明楽のことをデカい弟、と言って殴られているのを目にする。僕から見た感じ、明楽はそれを嬉しそうにしている節がある。天希も同様で、総じてよくわからない奴ら、という印象だ。
「あ、そうだった。ごめんごめん。やっぱり捨てられちゃったか〜、だった」
「余計傷口えぐってんだけど」
「違うよ、ポイされた、だよ」
「え、何二人して出血多量死狙ってる?」
「いやぁ、七成の反応がおもしろくてつい」
「つい、じゃないよ。こっちは買ったばかりの定期券落としたレベルでへこんでるんだからな」
「残念、もう一生戻ってこないんだねかわいそう」
「明楽、せめてかさぶたになるまで待ってあげないと。かわいそうだよ」
「かさぶたはがされたら治るものも治らないんだが」
「唾つけとけば治るって! 素子ちゃんにはつけるの失敗しちゃってたけど」
「別に取られたわけじゃねーし」
新たに好きな人ができたから、というわけでは断じてない。もしそうなら僕泣いちゃう。
「でさ、なんでポイされたの?」
「その言い方、割とムカつくな」
指先でつままれるようにして捨てられる雑巾か僕は。
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