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「ねぇねぇ、手は繋いだ?」
「……は?」
「恋人つなぎした?」
「……」
「ち、ちゅーは……?」
「……」
「……」
「2人とも見ててこっちが恥ずかしいよ」
天希がさもなれた感じで言ってくる。彼女いたことないだろうになんでそんなに冷静なんだ。明楽はこの手の話があまり得意ではない。それでも明楽は興味があるのか、僕が素子さんと付き合い始めたときは何でも聞いてきた。それを素子は平然と答えているのだから僕は真っ赤になってただ黙るしかなくて、天希がそれをみて笑いをこらえている、というのがつい先日のことだった。
「い、いいじゃん教えてくれたって」
「いや、言うわけないじゃん」
「ケチ。いいもん、直接訊いてくるから」
「あ、ちょっと明楽!」
止めるのを聞かずにぴゅうんといってしまった。まるでドアの隙間を風が通り抜けるかのように瞬く間に姿が見えなくなる。それを見届けた後、天希が真剣な面持ちに一瞬変わった。
「正直な話さ、七成が別れるなんて思ってなかったな」
「なんで」
「なんでって、う~ん……なんかそこらへん、七成ならうまくできそうだなって思って」
「そこらへんってどこらへんだよ」
「人間関係っていうか、誰とでも上手くいきそう、かな。器用だし」
「……器用なわけねぇだろ」
皮肉に聞こえた。器用ならもともとこんなことになっていない。不器用だから素子さんと別れたわけだし、こんなに色んな七成が生まれたのだ。
「聞いてきたよ~」
戻ってきた明楽はドアの前で止まり、手を振ってきた。そしてそのまま教室に入ってくると、後ろから着いてくる人影が見えた。
「ついでに連れて来ちゃった」
「……おい」
そこには本当に素子さんがいた。
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