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「それでも今の七成くんは何かが違うというか、足りないというか……」
「つまり、期待外れ!」
「おい」
「見込み違い、って言うんだっけ」
「天希そこ乗るとこじゃないぞ」
「……拍子抜け?」
「素子さんもひねり出さなくていいから」
「失望!」
「元気に言うな!」
まったく、僕を何だと思ってるんだ。
「……素子ちゃんは、さ。その、違和感がわかればまたこいつと付き合うの?」
「そうね」
「……だってさ、ほら、男を見せるときだぞ」
「男を見せるったって……」
「できないの? や~いヘタレナナセ~。略してヘタっぴ~」
「略してないしナナセの部分どこいった」
「どうせ素子ちゃんの前では気取った態度してんでしょ」
「さぁどうだろうな」
「『道路側は俺が歩くから、素子は安心して歩け。何があっても俺が守りますから』」
「誰だよ」
「リーダーナナセ」
「いや誰だよ」
「七成くん」
素子が僕の方に向き直って微笑んでいた。
「実はね、明楽ちゃんから七成くんのこと聞いてたんだ」
「素子ちゃん!?」
珍しく明楽が焦ったような声音でいた。仕返しのチャンスとばかりに深掘りしようと聞いてみる。
「どんなふうに言ってた?」
「七成くんはね、口が悪くて意外とズボラでたまにネガティブ」
「散々な言いようだな」
「てへ」
「てへ、じゃねーよ」
「でもね、引っ張ってくれてなんでも知ろうとしてくれて、そして楽しい人だって。明楽ちゃんね、七成くんのことよく見てよく理解しているんだよ」
明楽と目が合う。目をまんまるくさせてすぐにそらし、ちらちらと様子を伺うように僕を見ていた。
「正直ね、明楽ちゃんが羨ましい。七成くん、明楽ちゃんには見せる顔を私には見せてくれないから」
実際色んな七成を素子は知らない。でも明楽は知っている。これだけで随分と変わってしまう。
「わたしと明楽ちゃんが反対だったらよかったのにね」
「も、素子ちゃん!」
明楽にしては珍しく焦った様子で素子を教室の隅に連れて行くと何やらヒソヒソ話しをしていた。しばらく口を開いていなかった天希はそんな明楽を温かい目で見ているようだった。
「何話してんだ?」
「さあね、きっと大事な話しかな」
そして話終わったのか、素子は「じゃあわたし戻るね」と手をひらひら振りながら教室から出て行った。
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