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初めて七成委員会が開催された日、自分相手に自己紹介をするという奇妙な体験をした。まったく同じ顔が僕の他に二人。「……僕は死んだのか?」と口にしたら先導七成に大笑いされた。それ以来先導七成の笑ったところは見たことがない。そして怠惰七成の声もそれ以来聞いたことがない。
僕は僕同士で色んな話をした。僕という人間について、認識している僕の性格とその極端さについて、そして個々の僕の思い。それは自問自答に近い感覚なのかもしれないが、それでも返ってくる意見は僕の想像をはるかに超えていて、自分とは思えなかった。それこそ学校で友達と話しているような、そんな感覚だった。
「これより七成委員会を開会する。出欠を取る」
だから、僕の一番の理解者である僕に、今後のどうすればいいのかをゆだねる。それが一番後悔なく、一番納得できる答えだ。
「先導七成」
いつものような伸びた返事がすぐにしなかった。それに対して誰も疑問の声を発しようとはしない。
「おい先導七成、どうした」
呼びかけるが応答がない。再び呼びかけてもまっすぐに前を見つめていて動かない。だが急に「はは、はははは」と笑い始めそのまま前のめりで受け身も取らずに顔面から落ちた。
「お、おい! 大丈夫か!!」
駆け寄って尻の突き出た体制の先導七成を転がす。そのまま固まった体制で……気絶していた。
「どどどどどどど、どーしよぉぉおお!?」
困惑の声は楽観七成からだった。
「何とかなる何とかなる何とかなる何とかなる何とかなる何とかなる何とかなる……」
「ただの悪口しか脳のない僕なわけでして、相手の顔色をうかがいながらも守ってあげたいという母性本能をくすぐる臆病七成さんや相手のすべてを知ろうとする純愛を持つ粘着七成さん、いつも引っ張ってくれる先導七成さんなんかがいらしゃるので、今回は僕の出番はあるわけがないわけでして……」
「僕にはもったいないお方だ。きっともっと良い人があらわれるそうに違いない……」
臆病七成、悪態七成、粘着七成の順にこれまたおかしなことが起こる。極めつけは、
「これからどう関係性の転換をしていくか……」
怠惰七成の声を久し振りに聞いた。
「おいみんなどうした。静粛に、静粛に!」
声を張るがみんなの音量に負けて静まる気配がない。
「わからねぇのか!? 素子が言った『わたしと明楽ちゃんが反対だったらよかったのにね』ってことはつまりだな」
顔が近い。鏡が目の前にあるような感覚でいたが、僕はこんな剣幕にはならない。目を逸らすと他の七成も僕の方を信じられないと言った目で見つめていた。
「明楽はお前のことが、」
空気がはじけた。目がチカチカしてまるで目の前に雷が落ちた映像が流れたような気がした。うっすらと視界が白けてきて耳に雑音が戻ってきた。声がしてそれがたぶん呼ばれていると認識するまで数秒かかった。
「カズ、起きなさい」
母親だった。いつもは放任で遅刻は自己責任と言っているのに、なぜか今日は起こされた。
「なんだよ……」
「なんだよ、じゃないの。あんたにお客さん」
「……お客さん?」
ん、と母は窓の外を指差した。その先を見てみると、なんと明楽がいた。
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