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風船と水上のアオイ
✕✕公園は、この街のなかでは一番大きい公園である。ベンチもある、遊具もある、広場もある、散歩もできる、たまに風船売りがくる、池もある。
ヒナタはアオイに引っ張られるように公園を歩く。
彼女がケーキを一人で食べるのを嘲笑った女。それがヒナタの眼前で存在感を放っている!
「あなた友達っていないの?」
「い、いやあ。何人かは」
「一緒にお誕生日も祝ってくれないのに?」
「な、何を言うの。私が療養中だからみんな気を使ってるだけで、ハピバのメッセージぐらいは送ってくれたし。LINEで」
「なんかごめん。でもさ、私がケーキ屋をはじめてバースデーケーキにこだわる理由ってそこなんだよね」
「はい」
「同じ空間で、同じケーキを食べる。同じことを祝う。これってなんかいいじゃん。そしてそれを見守る私」
そう説明されると、ヒナタも自分の停滞していた心も動いていくような感じがした。アオイはしゃんと生きている人なんだなと感じた。
「風船でも買う?安いよ」
「え?なんで?」
「一個十円だしお得だよ」
「お得っていうか、そも要るの?」
アオイは風船売りから風船を二つ買って一つをヒナタに渡した。
「あ、ありがとう……。?」
そしてまた二人は歩いた。まだ冬の成分を少し残した早春の風が吹いた。
ヒナタの手が緩み、手から風船が離れ飛んでいった。
「あ」
風船は池を越えて向こうの林のほうへ。
アオイは慌てて言った。
「わたし、取ってくる」
「ファ?なにもそこまで」
「いいから」
その次の瞬間、ヒナタは妙な景色を見た。
風船を追いかけるアオイが、池の上を歩いている?
見間違いでなければ、たしかにそうだ。
何度かまばたきするうちにアオイが目の前にいた。
「ほら風船取ってきたよ。今度は離さないでね」
そしてヒナタの手に風船をしっかりと握らせた。
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