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シバとおばさんの涙
シバはその日も、甲斐甲斐しく朝から店の掃除をしていた。
小学生のときは誰よりも給食当番を張り切り、大学のときはファミレスでバイトをして、卒業後は収入度外視で自転車の配食サービスをしてきたシバ(自転車配食サービスで無理がたたり体を壊して、後にこのケーキ屋に拾われた)。
「食物を他者に提供する」という命題に忠実に生きてきたシバは、ケーキに理想を託すアオイにとって比喩的に言えば“忠犬“である。
それに対してヒナタはズッ友である。
アオイは過去を誰にも語ったことがない。というのは大袈裟だが、「学生時代はバスケット部に所属していました」ぐらいのことしか語ったことがない。
目つきは悪いが、案外本気で他者を幸せにしたいらしいことは普段の言動から伝わる。
しかしなぜケーキなのか?なぜそこまで利他的なのか、根本的な動機はよくわからないまま、リンコもソウイチもシバもヒナタも彼女の理想に献身しつづけた。
なんてことを疑問にも思わず、一心不乱に窓を拭いていたシバの視界に、くたっとした感じのおばさんが映り込んできた。
ビーナスの店頭にはカタログが掲示してあったが、おばさんはそのカタログをじっと眺めている。
カタログは最近更新されていて、ヒナタが作ったオリジナルのショートケーキの写真も載っている。
「お客様」
シバが声をかけるとおばさんがスゥーっと顔を向ける。
なんと、おばさんはショートケーキの写真を見て、涙を流していた。
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