アオイ

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アオイ

「ちなみに私はアオイと言いますよろしくおねがいします」 「はあ」  ケーキ屋の女は部屋に入るなり自己紹介をした。そしてケーキの箱をテーブルに置いた。  アオイは心なしかニヤニヤしているような気がする。 「あ、ありがとうございました」 「……」 「あ、ありがとうございました」 「……」 「あ、ありがとう…。あのお、ケーキ屋さん、どうかされましたか?」 「いやあ。いちおうそのケーキ一人前なんで大丈夫かと思いますが……」 「はい」 「そのケーキ本当に一人で食べる気なんですか?」 「はい、そうですが?」  ヒナタの返答を聞くなりアオイはプッと吹き出した。かなり失礼だなとヒナタは感じた。 「ヒナタさん?ヒナタさんでいいですよね?良かったら私ご一緒しますが?いちおう当店はそういうオプションもあるんでー」 「オプション?」 「はい、ヒナタさんが注文されたのはただのケーキではないですよね」 「バースデーケーキです」 「そう。私どものお店では、バースデーケーキを配達するだけではなく、ささやかながらバースデーパーティーを盛り上げるお手伝いなんかもしておりましてー。割とファミリーのお客様が多いんですけどねー」  ヒナタはハッとして、自分を卑下した。ゲームのセーブデータが消えた代わりにバースデーケーキを頼んで一人で食べるという行為が、世間一般からしたらそんなに淋しいものに見えるのかと思い、背筋が凍る思いがした。  しかしながら、たった今あったばかりのケーキ屋の女にワンツーマンで祝われるのもどうだろう?  ヒナタはアオイの提案を丁重に断った。  帰りがけにアオイは来年もよろしくと名刺を渡してきた。そして帰りがけに一言。    「あなた、もしかして手先器用な人?」  ヒナタはゲームにハマる以前はプラモデルづくりにハマっていてその時に組み上げた大作のロボットのプラモデルを居間に飾っていたのだ。アオイはそのプラモデルをスマホで撮影して帰っていった。  まるでミーハーな友達が遊びに来たような感じだった。
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