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 ノバラが城に侵入したルートを、もときた通りに、ふたりが駆け戻っていく。  長年閉じ込められていた割に、王子弟は足が異様に速かった。たぶん、部屋の中で厳しい体力トレーニングを積んでいた成果だろう。  ノバラは、前方を走る王子弟の姿が、光に包まれているような錯覚をおぼえた。  彼は、やっと自由になれるのだ。  しばらくは走るふたりの足音だけが響いていた。しかし、城のどこからか、警備兵たちが動いているざわめきが伝わってきた。  ロサの部屋から出てきたのを目撃した彼らは、侵入者のノバラを探しているのだ。 「おまえ、ヘマをしたのか?」  全力疾走しながら、王子弟が鋭く質問を投げてくる。 「仕方なかったのよ、あの王子相手じゃ」  暗い階段を下りきると、ふたりは非常口の扉の前に着いた。  扉は頑丈な鉄の網で覆われていた。  ノバラが入った時にはなかったものだ。城の守衛装置が働いたらしい。  王子弟は大きく舌打ちし、白い足で網を蹴りつけた。網は微動もしない。 「たぶん、どこの扉も封じられてる」 「どうするのよ!」  背後から、警備兵たちが押し寄せてくる音の振動が伝わってきた。このままでは袋のネズミだ。  唇を噛み、王子弟は辺りを見渡した。  軽く一〇メートルは上方にある大きな天窓を見つけると、彼は目を細めた。狙いを定めるように、左腕を掲げる。  王子弟の左手首は、蔓がブレスレットのように巻かれただけの状態だ。  次の瞬間、その蔓が飛び散るように増殖した。  一本は高く昇って、天窓のすぐそばにある屋根裏の、むき出しの鉄骨に巻きついた。他の五本は、自らの腰に巻きついていった。 「ちょっとあんた――」 「ノバラ、すぐにおまえも引っ張ってやるから、そこで待っていろ!」  王子弟は決意を込めた声で叫ぶ。  止める間もなく、蔓に抱(いだ)かれた彼は、地上から浮かび上がった。たった一本の蔓を命綱にして、王子弟の身体は、よろよろと頼りなく持ち上がっていった。 「王子……!」  ノバラは、ただ地上から見守ることしかできなかった。  やがて王子弟は、蔓を巻きつけていた鉄骨に、両腕でしがみついた。手を伸ばし、天窓の横にある手動の開閉ハンドルを掴んで回した。天窓が少しずつ開いていく。  そして彼は、開いた窓の枠に肩を乗せ、外に頭を出した。
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