呪い

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呪い

 双子は不吉で、呪われている。  これは、この国に古くから伝えられている伝承だ。科学が発達した現代から考えれば、鼻で笑い飛ばせるような、くだらない迷信に過ぎない。しかしこの国ではずっと、この伝承を信じてきた。だから双子のきょうだいが誕生したら、弟(妹)を赤子のうちに処刑し、兄(姉)だけが生まれたように公表された。  ぼくも当然、生まれてはいけない赤ん坊だった。その風習に従って、すぐに殺されるはずだった。  殺されるという自覚もないままに闇に葬られていたほうが、どんなに楽だったか。  あとから聞いた話によると、こうだ。  ぼくの処刑が施行される予定だった夜に、兄が熱を出したそうだ。夜泣きが止まらなかったらしく、ぼくの処刑はやむなく延長になった。延期された処刑の日になると、またもや兄が風邪を引き、ひきつけを起こして大騒ぎになったらしい。そんなことが何度も繰りかえされて、『ロサは弟が殺されることに反対らしい』と母は判断した。当時は赤ん坊で、まだ兄に判断力なんかないくせに、勝手に解釈しやがったんだ。『なんて弟想いの優しい息子なんだ。ロサに免じて、弟の処刑はまぬがれてやろう』と母が阿呆なことを言い出したおかげで、ぼくはこうして十五歳になる今日まで、ずっとこの部屋に幽閉されているというわけだ。   「王家に受け継がれている『茨を自由に操れる能力』が、ぼくは母や兄よりずっと濃い」  王子弟は誇るように左腕を窓から出して伸ばしてみせた。彼とノバラをつなぐ蔓である。彼は自らの腕に巻きつけた棘の生えた蔓を、いかようにも操れると語った。隣町にまで長く伸ばすこともできるし、それを一瞬にして縮めることもできる。よほどの腕の立つ剣術者でもない限り、刃物で蔓を断ち切ることもできない。 「おまえの腕をつかんだ蔓は、化け物みたいだったろう? この力を伸ばそうと、毎日こっそり練習している」  王子弟が幽閉されている部屋にある唯一の窓は、最低限の換気用だ。サイズが小さく、例えガラスをすべて割っても小柄な王子弟が脱出することはできない。  茨の力を使おうと思っても、壁に穴を開けたり鍵を壊したりするほどには強くない、と彼は眉を曇らせる。  また、蔓をどんなに遠くまで伸ばして操っても、蔓が見ている風景を見ることはできないため、遠隔で人を殺したり、目的のものを奪ったりするという、細かい芸当はできないんだ、と王子弟は悔しそうに言った。 「ぼくの願いはただひとつ。ここから出たいということだけ。母や兄に復讐したいとは思わない。彼らは少し頭が足りないだけで、悪気はないはずだ……それより、ぼくは自由がほしい。ぼくは自由になったら、名前を得て、どこか全く見知らぬ街で新しい生活を始めたい。ごく普通の暮らしがしたいんだ」  王子弟が陰気な影をまつげに落としたまま、身の上を語り終える。話を聞かされたノバラは、しばらく、ぽかんと口をあけたまま固まっていた。  そういえば、ロサと姿形は似ているけれど、柔らかそうなロサと違って、この子は目つきが鋭くて獰猛な虎のようだわ。それは、こんな生活を強いられている証拠なのね。  ノバラはうんうんと頷いた。 「事情は、とってもよくわかったわ。わかったから、蔓を外してちょうだい」
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