◇蒼へと嗣ぐ

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彼の名前は佐世嗣呉。正式書類上の名前はこの名だが、普段は『シグレ・サセ』で通している。今年42歳になった。階級はレッドライン1本。だが現場を仕切る事はない。本来の嗣呉は前線要員ではないからだ。 彼は6年程前まで『東方管轄区管理課』と言う部署に配属されていた。ここは所謂特殊部隊だ。所属人数は少ない。当時、嗣呉を含めて4人しかいなかった。当然だろう。管理課とはその存在すら噂めいた部署だ。東方と名づいていながら東方にはない。裏の仕事をする、少数精鋭部隊なのだ。 そんな課において、嗣呉は呪符製作者として所属していた。呪符ユーザーとしては標準的で、額面通りの行使しか出来ない。ランクも一般的。だが、呪符を『製作する』事においてはかなりの精度を持っていた。 欲しい内容、欲しい精度、欲しいランク。それらをユーザーに合わせて精密に組み上げる。嗣呉の作る呪符はかなり的確なものである。 そんな嗣呉がどうして今の部署にいるのか。それは嗣呉の『体質』にあった。 彼は6年前、事故を起こしてしまったのだ。管理課として当時の同僚と共に現場に入り、同僚に合わせた呪符を調整。同僚が設備破壊の為に呪符を行使しようとした瞬間、嗣呉は同僚に触れてしまった。結果として呪符は暴発。同僚はその時の負傷が原因で退役を選んだ。 何故暴発が起きたのか。不明なままが嫌で嗣呉は調査と検証を行った。暴発当日、嗣呉は何枚かの呪符を用意していた。その内、『行使した1枚だけが暴発した』と言う事が判明。ではそれは何故か。検証の途中で発覚した事は、嗣呉自信が『例外』と呼ばれる存在であると言う事だった。 その『例外』は主だった能力としてみっつ挙げられる。 ひとつ目は『spell-amplifier(呪符増幅)』。行使しようとする呪符の効力を増幅して解放出来る能力。 ふたつ目は『spell-canceller(呪符無効)』。呪符の効力を無効化させる能力。 みっつ目は『spell-booster(呪符上乗)』。他人が行使しようとしている呪符の効力を底上げする能力。 嗣呉はこのうち、『spell-booster』に該当した。呪符行使者に触れている事により、行使者が扱う呪符の効力を底上げしてしまっていたのだ。36年間生きてきて初めて知った事実に驚き、さすがに狼狽えた。呪符製作のスキルを持ち軍お抱えの呪符製作者として20年もの間、軍の呪符を支えて来た彼が上層部からの招集を受けこの部隊へと組み込まれた。ここでの彼の役割は呪符製作と、現場でのブースターとして前線にて呪符ユーザーの底上げを行う事。彼がブースターとして前線に出るようになってから、明らかに呪符火力は増した。 そこから2年後、良くも悪くもな出会いをする。 ────────────────────
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