◇蒼へと嗣ぐ

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彼の名前はサフィール・オーギュスト。20歳になったばかりだった。階級はブルーライン1本。彼は3年前に軍属となった。 彼の実家は中央管轄区にあった。中央都市ではないがそれなりの場所に家を持つ資産家の長男だ。長男と言えば聞こえは良いが、実際には長女として育てられた経歴を持つ。この家の第1子は女子で、当主の意向で外では長男と偽り育てていた。サフィールは翌年生まれた第2子で、既に長男と偽った長女がいる為に長女と紹介され育てられた。どちらも外向きに偽るだけで、内面的には長女は女子であり、サフィールは男子だった。ただ、そう言う家で育ったサフィールは女物の服を着る事に抵抗がない。見た目も長いプラチナブロンドを靡かせるくらいだから、女子にも見えなくはない。しかしここではそれを活かす事は出来そうにない。 そんな彼が軍属となったのには理由はない。寧ろあったのは上層の都合だけ。 事件に巻き込まれ両親とは死別。姉とも生き別れた彼を保護したのは東方管轄区管理課のシュタールだった。シュタールは詳細を聞かされないままサフィールの保護を行った。管理課が絡む案件、しかも保護。シュタールはサフィールに関して管理課の目が行き届く場所で管理保護していくものだとばかり思っていた。だが実際は違う。サフィールを上層に『持って行かれた』のだ。 上層がサフィールを欲したのには当然理由が存在する。サフィールもまた、『例外』と呼ばれる存在だからだ。 サフィールの能力は『呪符増幅(spell-amplifier)』。それもかなり強力なものとなる。 通常、呪符を起動させる為には『解放宣言』と言う動作が必要となる。ただ呪符を手にしただけでは呪符は応えてはくれないのだ。だがサフィールは解放宣言なしで呪符を起動させる事が出来る。つまり彼の場合、呪符を手にした瞬間に呪符が起動するのだ。しかも額面通りではなく何倍かに増幅させて起動する。 上層はこれに目を付けた。サフィールを上層直属で囲い、彼の能力を活かしつつ有事の際に力を示そうと目論んだ。サフィールの能力は使い方次第では兵器となる。彼が存在するだけで、戦場での有利を取ろうと考えているのだ。 シュタールはサフィールを保護した旨の報告をした事を酷く後悔した。もしシュタールが報告をしなければ、あるいはサフィールを上層に渡さなければ、サフィールから笑顔を奪う事はなかった筈だ。 家族と別れ、軍部に保護と言う名目で囚われ、自らが嫌う能力の行使を強要され、終いに彼は悟った。もう、どうでもいいや、と。 蒼いサファイアのように綺麗な瞳を持ちつつも、それは日に日にくすんでいった。笑う事もなくなり感情と言う感情もなくなり、サフィールは心を閉ざしただ上層の命令に従う兵器となっていった。 ──────────────────
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