◇蒼へと嗣ぐ

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嗣呉がサフィールを気に掛けてしまったのには、本人にも無意識的であろう根底が存在するからだ。 嗣呉は16歳で軍属となった。扱いとしては志願兵としてだった。嗣呉は元から呪符製作のセンスを持ち備えており、軍部の呪符製作班の目に留まる形で声を掛けられ軍属を決めた。当時の呪符製作班の責任者は嗣呉をえらく可愛がり、技術を惜しみなく教授した。それを嗣呉がどんどん吸収し、それまで以上にセンスと技術を磨いていった。 10年程呪符製作班で仕事をしたのち、嗣呉に異動命令が下る。東方管轄区管理課への異動だ。ここは特殊部隊であり、存在は噂程度のものだった。ここで嗣呉は『ここの仕事に必要となる緻密な呪符』をメインで製作しつつ、呪符製作班の仕事をいくらか受ける形で仕事をこなしていった。 嗣呉のプライベートな話をすると、嗣呉にも当然先を見据えた相手がいた。もうそれは過去形の話だ。 嗣呉は6年間管理課に在籍をしていたが、ここに転属して2年目くらいに別れを告げる決断をした。相手を愛していたからこそ別れを選んだ。自分が『東方管轄区管理課』と言う部署に所属していたからこその決断。管理課と言う部署が特殊班である以上、自分の身の危険は避けられない。更に言えば自分の身の回りの人の身も危惧してしまった。自分の傍にいる事により相手の命を脅かす可能性のある部署、それが管理課だ。 守秘義務がある以上、仕事の全てを言える訳ではない。それでも嗣呉は可能な限りの話をし、その上で別れを告げた。本音と建前が一致しない、辛い別れ。口は悪くても仕事を含め様々な部分で誠実な嗣呉故、相手も真摯に受け止め受け入れる事に決めた。 もし嗣呉が別れを選ばなければ。もし相手と結婚していれば。もし子供が生まれたならば。この子供はサフィールと同世代となる。嗣呉は自分の前に出されたバディとなるサフィールに、もしかしたらいたかもしれない自分の子供の姿を重ねてしまったのだ。 感情表現が乏しく傀儡に近いサフィールに対し、それまで抱く事のなかったモノを抱いてしまった。それは『心配』であり『親心』。家族を失い、軍部のやり方により感情まで失いつつあるサフィールに触れた事により、嗣呉は年齢の離れた相方に対し仕事上の間柄だけではなく、それ以上の『何か』を持ってサフィールの傍にいようと考えた。 多分、自分以外はもう誰もサフィールを守ってあげられないから。 ────────────────── ──────────────────
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