◇蒼へと嗣ぐ

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「シグレさん、ご無沙汰しております」 今回の現場は西方国境線地域。国境線地域は常に慌ただしく、一触即発の状態が続いていると言っても過言ではない。こちらの軍部と不法入国者との争いは日常茶飯事だし、場合と相手によっては西方管轄区国境警備隊の手を離れ、東方管轄区管理課が指揮を執る場合がある。今回の仕事はまさに管理課からの仕事であった。 「…シグレさん、誰ですか?」 嗣呉の背中に隠れるようにいるサフィールがそう嗣呉に尋ねる。基本的にサフィールは嗣呉以外にはろくに話しかけない。これは2年間掛けて嗣呉がサフィールとの信頼関係を築いたからこその産物だ。 「あぁ、この人は俺の元同僚だ。悪い奴じゃない、安心しろ」 「そう…」 サフィールは嗣呉の陰からそっと相手を伺う。嗣呉に声を掛ける事の出来る人物。サフィールの興味を引いた。 相手を観察する。毛先にくせがある黒い髪、その長さは肩甲骨を覆う程度程度。それを緩く緋色の紐で一纏めにしている。黒い瞳は思っているよりも穏やかそうな人だ。肩章を確認すると嗣呉よりも上であるレッド3本。同僚と説明されたものの、階級は違う。 「サフィール君だね。こうやってちゃんと会うのは初めてだ。私はシュタール・アレス。今回の案件責任者だ」 シュタールが右手をサフィールに差し出した。だがそれが握り返される事はない。そんな様子を見てシュタールが複雑そうな表情を見せた。 「シグレさん、今日はありがとうございました。…あの、あとで時間って取れますか?どうしてもシグレさんと話をしたいんです」 シュタールは現在の東方管轄区管理課の責任者だ。嗣呉が在籍していた時と体制が変わった。嗣呉がいた時の管理者はシュタールの父で、そこにシュタールと嗣呉、退役してしまった同僚の4人だった。今は責任者がシュタールとなり、シュタールの弟と事務方職員の3人で課を運営している。 「構わねぇが…」 「何か問題でも?」 ちらり、と嗣呉が後ろに隠れているサフィールに目をやる。 「こいつを1人にしておけなくてな」 「シグレさん、もしかして一緒に生活しているんですか?」 「まぁ…な。バディ組んだ当初は別々の生活だったんだが、こいつ生活能力皆無でさ。あまりに酷くて放っておけなくなった。それに…」 「それに?」 「いや、どちらにしてもこいつへの命令は俺を通す訳だし、結局任務も一緒だからその方が安全だろ?」 「…シグレさん、柔らかくなりましたね」 シュタールが笑顔を作り嗣呉を見る。その笑顔は自然ではない。必死に作った笑顔だ。 「やはり話を聞いて下さい。俺は嗣呉さんに伝えなくてはならない事があります。…サフィール君にも…伝えておいた方が良いのかもしれません」 必死に作った筈の笑顔はもう崩壊寸前だ。 「俺は…あなた方お2人の姿をこうやって見たら、とても黙ってはいられません。俺はサフィール君に謝罪をしなくてはならないし、それに絡みシグレさんにも知っておいて貰わなくてはならないと判断しました」 嗣呉の右手がシュタールの左肩にそっと置かれた。それを機にシュタールが改めて嗣呉の顔を見る。普段の仕事なら凛とした表情と態度を見せるシュタールなのに、今は重圧に潰されそうだ。 「この仕事が終わって帰還したら、俺の家に来い。そこで飯を食いながら話をすれば良い」 「ありがとうございます。シグレさん」 漸くシュタールが安心したような顔を見せた。 ──────────────
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