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私はまた手を振る。駿も手を振ってから、自転車を大きく漕ぎ出し、グングンと道を進んでいく。
私は見えなくなるまで見送って部屋に入る。
外に出て冷えた、でも幸せで満タンになった身体に、駿が抱きしめてくれたときの背中の手の温かい感触が残ってた。
・・・・
緑眩しい春が過ぎ、うだる暑さの夏が過ぎ、短かった秋が過ぎると、また冬になった。
冬の朝、時々、差し込む陽射しで目が覚める。
そんな時、いつもあの時の背中の感触を思い出す。そして、知らぬ間に涙ぐんでいて、寝ながら泣いていた事に気付く。
駿は、あの日、会社への通勤途上、交通事故で亡くなった。横断歩道を青で渡っていたのに、左折してきたダンプに巻き込まれのだ。
警察から駿の会社に連絡が入り、駿の会社から書店で働いていた私のスマホに連絡が入った。会社の緊急連絡先に、『続柄:婚約者』で私が登録されていたらしい。
連絡を受けた後のその日の記憶が私には無い。
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