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夕食を終えるとマークはダイニングからリビングへと移り一般家庭用のアップライトピアノのベンチタイプ椅子に腰を掛けた。今は亡き母親が音楽が好きでピアノをよく弾いていた。マークは母親の影響で幼い頃からピアノを弾くようになったのだ。彼はクラシックから今流行りの曲まで何でも弾ける。
部屋にクラシックの美しい旋律が広がる······すると突然、隣にイヴが座ってきたのだ。
「イヴも弾くかい?」
「ううん、お兄ちゃんの横で聴いてたいの」
イヴは宙に浮いている足をパタパタさせながら可愛い笑みを浮かべる。そしてマークは再び演奏を始めた。今度は彼女の好きな子供番組のテーマソングを弾いてあげるとイヴは更に足をパタパタさせ、喜んだ。
「二人共、明日も学校があるから早く寝なさい」
ダイニングで後片付けをしていたジェームズが二人に声を掛ける。マークは返事をするとピアノの鍵盤蓋を閉めた。イヴは少しつまらなそうな顔をするのでマークがまた明日弾いてあげるよと話すと彼女は再び笑顔になった。
マークは自分の部屋のベッドでマンガを読んでいるとドアをノックする音が聞こえた。
「お兄ちゃん···入ってもいい?」
マークが“いいよ”と返事をするとイヴが部屋に入ってきた。彼女の腕には大好きなウサギの人形のリゼルが抱えられている。
「一緒に寝てもいい?」
「いいよ。怖い夢でも見たの?」
その問いに彼女は目を擦りながら小さく頷いた······そしてイヴはマークの隣に横になり、リゼルを抱きしめながら目を閉じた。
「おやすみ」
マークは読んでいたマンガをサイドテーブルに置き、スタンドの電気を消した。目を瞑るとイヴの眠っている息遣いが聞こえる。マークは彼女の髪に顔を近付けた······シャンプーの香りに女の子らしい甘い香りがする。彼はハッとして顔を離した。
イヴに抱かれているリゼルの黒いプラスチックの瞳がこちらを見ているようだった······マークは少し後ろめたい気持ちになり、彼女を背にして眠りについたーーーー
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