act.3

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act.3

  『一誠! 身長伸びてた? なんセンチだった?』 『171。いさは?』 『⋯⋯⋯⋯178♡』 『嘘つけ。168だな』 『違うもん! 169だもん!』  高校生の頃は俺の方がちょっとだけ背が高かった。そのぶん余計に勇魚は可愛い存在だった。あちこちハネた髪も無邪気なペカペカの笑顔もぷにぷにのほっぺたも、全部が可愛くて愛おしくて堪らなかった。隣に居るだけで落ち着いた。癒された。だがフェンス越しのこの男は。 「なあ!! 一誠だろ!? 俺! 勇魚! 忘れたのかよっ⋯⋯!」  くたびれた作業服、陽に灼けたゴツゴツの手、鉄砲、何よりその前のめりな勢いが怖い。声がデカくてめっちゃ怖い。 「なあっ⋯⋯! 夢じゃないなら返事しろよっ⋯⋯!」  サングラスを外した目は睨みつけるように、いや、泣き出しそうに俺を捉えている。必死過ぎるその顔は、俺の知っている柴犬っぽい顔じゃない。シベリアンハスキーにジャーマンシェパードを掛け合わせたウルフドッグが牙を剥いているようだ。サイズ感がサモエドのようだ。  ─────心拍数がヤバい  ─────血中酸素濃度が低下する  ─────肺が正常に機能していない  ─────息苦しい  俺は発作的に逃げた。  全速力で駐車場に駆け込み、車を発進させた。  待て。待て待て待て。アレは勇魚だったのか。本当に勇魚だったのか。疲労と睡眠不足が見させた幻じゃないのか。白昼夢じゃないのか。 「逃げんなコラ───!!」って雄叫びみたいな声が耳の奥に残っている。これも幻聴なんじゃないのか。
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