act.3

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   俺はまた深い眠りに落ちていた。体感的に五分十分(以下略  だが今、覚醒しつつある意識が確かに視線を感じ取っている⋯⋯気配がある。  ぱっと目を開けたら覆い被さるように人影があってまた心拍が跳ね上がった。 「トーチャン大丈夫か」 「ひゃあぁぁあっ!!」  驚きのあまりチェアから転げ落ちそうになった所を腕で掬い上げたのはサモエド、いや勇魚、い、勇魚⋯⋯?  ─────⋯⋯いやいやいや、いやいやいやいやっ⋯⋯ 「かかか勝手に入って来てなんだっ!」 「表の貼り紙見てさー。中電気ついてるしさー。もしかして一誠居るのかなーって思ってドア押したら開いたから。寝るなら鍵して寝ないと不用心だぞ」 「いやいやドア押すなよっ貼り紙見たなら大人しく帰れよっ」 「やっぱ一誠だ〜♡夢じゃなかった♡」 「!」  ぎゅうっと抱き締められて魂が抜けるかと思った。なんだコレは。こんな大きな胸に長い腕、低い声。コレが本当に勇魚なのか。別人じゃないのか。 「ちょっ⋯⋯はなっ⋯⋯離せっ⋯⋯」 「昼間なんで逃げたんだよ」  体が離れたはいいが、勇魚は俺の目を真っ直ぐ覗き込んでくる。この仕草、この角度は確かに勇魚だ。 「親友の再会だぞ。十五年ぶりだぞ。俺はそんな薄情な子に育てた覚えはないぞ」 「育てられてねえっ」 「まあいいわ。メシ行こメシ。積もる話しよーぜー」  ─────⋯⋯どーゆー事だ。何が起きてるんだこれは。俺は白昼夢の続きでも見ているのか。つーか俺汗クサっ! めっちゃ汗かいたのに最悪だっ⋯⋯昨日から風呂にも入らず着替えもせずあれもこれも頑張ってっ⋯⋯ 「〜〜〜〜っっ」  あんまりだ。こんな再会あんまりだ。  どうせならもっとお肌も髪もベストコンディションで、ちゃんとオシャレしててイイ匂いもして、隙のない時に会いたかった。こんなヨレヨレな姿見せたくなかった。どうせだったら完璧な俺を抱き締めて欲しかった。  乙女かっ⋯⋯  
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