act.3

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  「メシなんか行かない⋯⋯実家でかーさんが待ってるし、奎二も⋯⋯」 「じゃあ明日は?」 「明日は明日でっ⋯⋯てか、貼り紙見たなら察してくれていいだろがっ!」  情緒がおかしい。  勇魚が目の前にいるせいで色んな感情がいっぱいいっぱいのぐちゃぐちゃで、俺は、俺は。 「⋯⋯⋯⋯ごめん」  顔を上げると見るからにしょんぼりした勇魚が俯いている。そんな⋯⋯そんな顔はズルいだろ。俺が悪人みたいだろ。 「トーチャン、そんな悪いの」 「いや⋯⋯そこまで⋯⋯でも入院してるし⋯⋯年だし⋯⋯」 「ごめん」  胸がジクジクする。なんで俺がこんな罪悪感に襲われなきゃいけないんだ。そもそもなんで俺はこんな可愛くない態度なんだ。いつも通りサラリと笑顔で躱せないんだ。例え隼斗その他から胡散臭い笑いだと言われようがそうやって何でも遣り過ごして来ただろ。乗り切って来ただろ。なのに勇魚が。  俺の『永遠』が目の前に居る現実にどう立ち向かえばいいのかわからないんだ。  悔しくなって言葉が継げないでいると、勇魚は眉間に皺を寄せつつ口の中をモゴモゴしている。どうした。   「⋯⋯トーチャン退院するまでは一誠が代わり? 虫歯治してくれんの?」 「まあそうだけど⋯⋯勇魚、もしかして歯痛い?」 「時々⋯⋯ロキソニン飲んだら治まるけどたまに激痛が」 「どこ? ちょっと見せて」  チェアに入れ替わりで座らせ口を開けさせる。見覚えのある歯並びだ。この軽い八重歯をどうにかしたい気持ちはあるが今はまあいい。うん、全体的によく磨けているし歯茎も概ね健康だ、が⋯⋯おい。この右上7番はなんだ。 「真っ黒⋯⋯! 死んでる歯がかろうじて引っ掛かってるだけだぞ⋯⋯! 目視で解るなんてよっぽどだぞ⋯⋯! 」 「やっはひ?」 「ちょっと待て、これもう抜けるわ。グラッグラ」 「!」 「異物を体外に押し出そうとしてるんだな……抜いた方が炎症の治りも早い。麻酔取ってくるから待ってろ」 「!!」  麻酔カートリッジ、カルプーレ(※着脱式注射針)はあったけどシリンジ、シリンジはどこだ。あ、全部の引き出しにラベリングしてある。めちゃくちゃ親切だ。ふむふむ⋯⋯分類もわかり易いな。おお、抜歯セット発見。アレならプライヤーで十分だけど一応。滅菌ガーゼもあった。ヨシ、棚ぼた式にあらかたの保管場所を把握できたぞ。  ミラー、探針(プローブ)、基本セット一式⋯⋯グローブとマスクも。あと手! 手も念入りに洗って消毒消毒。  ⋯⋯⋯⋯はぁ。  まさか地元での患者第一号が勇魚になるとは思わなかった。
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