introduction

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  「も将来はパイロットになる?」 「先の事とかわかんね! 一誠はやっぱ歯医者さん?」 「たぶん」 「代々医者の家系ってスゲーなー」  医者の家系は本家のほう。  曽祖父、祖父が昔ながらの何でも屋さん的町医者で、長男の伯父は大学病院勤務の医学博士(専門は消化器内視鏡科)、奥様も総合病院の婦人科医。そしてその子ども達(俺の従兄と従姉)は現在とっても多忙な研修医。全員医師なので間違いなく『医者の家系』だろう。  ちなみに伯母①は医師じゃないけどご主人が精神科医。伯母本人は影の経営者として心療内科クリニックを切り盛りしている。こちらも息子(従兄)が海外で医師修行中。  伯母②とそのご主人は揃って医師で、なかなか予約が取れないと評判の皮膚科・アレルギー科クリニックを二人でバリバリ経営中。結婚が遅かったそうで子どもはいない。  ─────で。  そんな家族の中で甘やかされて育った末っ子次男の父は歯科医になった。テニスと車が大好きで『K医科歯科大のイシグロケンと呼ばれていた』と言うのが口癖だ。が、俺にはイシグロケンが誰なのか解らない。 『歯医者さんはお医者さんよりえらくないの?』と身も蓋もない事を聞いた小学生の俺に、父は頑丈そうな白い歯を覗かせニカっと笑ってみせた。 『じーちゃんもおじちゃんおばちゃん達も色んな病気を治す為に頑張ってるけど、患者さんがどんなに痛くて苦しんでても、虫歯は治せないんだ』 『うちにお医者さんはいっぱいいるから、一人くらい虫歯が治せる歯医者さんがいた方がいいんだよ』 『それに歯が悪くなって噛めなくなると病気になる。弱る。動物はみんなそうだ』 『体は繋がってるんだよ。頭のてっぺんから爪先まで、もちろん心の中も。一誠の体は小さな歯のひとつまで全部一誠だよ』  俺は何となく、父の仲間になってあげたいと思っている。父が開いたクリニックの後継ぎになれたらいいなーと。
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