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日没後間もない空港は空のラッシュアワー。滑走路の南側上空には明滅する小さな光が複数機分見えている。雲に、大気に『ゴォォォォ』と『キィィィィン』の合わさった音が広がっている。
展望公園の駐車場は既に閉まっていて、路駐した車の傍らで景色を眺める。煙草は残り一本。コレ吸い切ったら禁煙しようかな。自信ないな。やっぱりそろそろ加熱式に鞍替えしようかな。
ゆっくりと吐き出した煙は風に流れる。
ここの何が好きだったかって『電線のない景色』も理由のひとつだよな。町なかをゴチャゴチャに走る電線電柱は見上げる空を分断する。イマドキのお洒落な街や新街区なんかはあれらを地中に埋めてスッキリしているけれど、やっぱりまだまだ健在だし。
視界に入る全てが空と繋がっている景色⋯⋯開放感があって気持ちいいのは当然なんだろう。
「え⋯⋯うそ、一誠?」
「っっ!」
驚いて体が跳ねると同時に咽せた。背後から「大丈夫かよ」って慌てた表情の勇魚が現れ、背中をゴシゴシ摩られて狼狽える。なんなんだ。なんなんだよもうっ⋯⋯!
「一日に二回も会うとかスゲー偶然! こんな事ってある!?」
「エホッ⋯⋯昨日も二回会ったわっ⋯⋯」
「あ、そーか! てかコレ運命よな! 俺と一誠は赤い糸で繋がってるんだわ!」
「⋯⋯⋯⋯」
おい待てふざけんな。何をヘラっとそんな台詞を⋯⋯と思ったら、勇魚の後ろに女の子が居た。ちょこんと。そして目が合った。
「こ ん ば ん にゃー」
「こ、こんばん、にゃ⋯⋯?」
待て。薄闇の中だろうが解るぞ。はっきり解るぞ。数時間前ワイルドスピードに腕を組んで向かったみーなちゃんとは別人だ。どーゆー事だ。
「なぁ 氏 の お と も だ ち で す か にゃー」
「高校の同級生! 歯医者さんなの!」
「ぅ お 〜 〜。なぁ 氏 に か し こ い お と も だ ち が い る と は 意 外 で す にゃー」
滑舌を含め全体的にゆるい不思議ちゃん系⋯⋯多様性。なお嬢さんの亜種みたいな雰囲気。あれはメディアの中での設定なんだろうと思っていたが⋯⋯実際にいるのか。日本古武道の達人並みにこちらを脱力させる何かがあるな。
「い つ も なぁ 氏 が お 世 話 に な っ て ま す にゃー」
「⋯⋯こちらこそですにゃ、」
「一誠! しーなちゃん! 飛行機飛ぶよー!」
勇魚の声に振り仰ぐと飛行機の『おなか』が夕空を塞ぎ、僅かに遅れてジェット音が響く。“しーなちゃん” は取ってつけたような仕草で耳を塞いだ。
「さ ん は ん き か ん が や ら れ ま し た にゃー……」
「三半規管! 鍛えなきゃねー! でんぐり返るといいんだって!」
「で ん ぐ り っ て ど う ゆ う 意 味 にゃー」
「でんって頭をつけてぐりんって回るんだよー!」
なんだこれはコントか。俺は一体何を見せられているんだ。
「だよな一誠!」
知るか。
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