act.4

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   虚 無  この二文字が頭に浮かんでいる。  一体何だったんだ。アレは何だったんだ。一日に二人の女の子とデートするなんて二股か。二股してんのか勇魚は。キャラじゃなさ過ぎて困惑する。  ただ⋯⋯一人だろうが二人だろうが勇魚の相手が “女の子” なのは覆らない。返す返すもそれが現実だ。虚しい。 「いっちゃん、なんだかお疲れね」 「⋯⋯あー、うん、久しぶりに人がいっぱい居るとこ行ったから⋯⋯ハハ」 「お母さんもイオンに行くと疲れるのよね〜広いし。トシのせいかしらね〜。お買い物はそこのコープさんが一番だわ〜何がどこにあるか解るもの」 「⋯⋯ウン」  折角の母の手料理も味がよく解らない。情緒がおかしい。ここ暫くジェットコースターのように上がったり下がったりを繰り返し全く安定していない。俺の方が三半規管に異常をきたしそうだ。 「洗い物なんていいのに」 「自分の使った分くらいはせめて」 「奎ちゃんにも見習ってほしいわ〜。大体あの子いつまでここに居る気かしらね」 「ハハ」  不出来な長男としては、奎二が家に居たから母不在でも父の異変に対応して貰えた訳で。感謝してますよ。安心ですよ。  風呂のあと、ビールを手に自室に戻るといつもの事ながら不思議な気分になる。俺が家を出てからも子ども部屋をそのまんまにしてあるせいだ。この部屋は高校生の頃のまま時間を止めている。  今日買った服を仕舞おうとクローゼットを開けたら、クリーニング店のカバーが掛かった高校の制服が目に入って驚いた。奎二の予備用にお下がりした筈だから、ヤツが卒業後邪魔になってここに押し込んだんだろうけど。  黒に近いグレーの上下、ネクタイ、淡いベージュのベスト。ワイシャツは流石に黄ばんでしまって⋯⋯⋯⋯  ─────  ─────  うん、処分しよう。ここに居るうちに処分だ処分。学習机も要らない。断捨離してしまおう。そんでちっちゃい冷蔵庫とか買おうかな。テレビも。そう言えばノーパソ持って来れば良かったな。そしたらゲイビ鑑賞なり出来たのに。スマホだと画面が小さくてイマイチ盛り上がりに欠けると言うか臨場感が足りないと言うか。 「⋯⋯⋯⋯」  クッションがへたり気味のシングルベッド。勇魚はよく上がり込んで占領して、ゲームしたり漫画を読んだり我が物顔だった。そして高確率で寝た。無邪気な勇魚は寝顔まで無邪気で、たまにデッカい寝言も言った。  触れられない、触れてはいけない、宝物のようにただ見つめるだけだった自分がまだこの部屋に住み着いているようで息苦しい。どんなに気持ちを紛らわそうとしても引き戻されてしまう。 『てかコレ運命よな!』 『俺と一誠は赤い糸で繋がってるんだわ!』  
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