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「一誠のトーチャンかっこいい」
「イシグロケンらしいから」
「イシグロケンって誰」
「俺も知らん」
空はすっかり暗くなり、風も出て来た。街灯に照らされた勇魚は屈託なく笑う。
「ラーメン食べたいなー」
「マックのポテトくらいなら付き合う」
「え〜〜〜」
不服そうにしつつ、勇魚はカチャンと自転車のスタンドを外した。
空港をぐるりと囲むフェンス沿いのこの道路は、地元民にとってポピュラーな幹線道路への抜け道。特に朝夕は交通量が多い。車が切れたタイミングでペダルを踏み込み、道路を横切って一気に土手のサイクリングロードへ上がる。
「あ! また着陸!」
陽が沈むと飛行機のライトはよりくっきりと識別できる。南の夜空に明滅する星がふたつ、みっつ⋯⋯少しずつ大きくなる。
「俺がパイロットになったらさー。一誠が虫歯治して。本田歯科を一生かかりつけにするから」
「戦闘機乗りになんの」
「気圧の変化に虫歯は大敵なの! 宇宙飛行士もダイバーも!」
「知ってる。エリア88でもゆってたし」
エリア88は昭和の漫画だけど勇魚の家で読んだ。結構面白かった。ついでに勇魚のお父さんの愛蔵書は全部読破した。
「あれが着陸したらマックいこー」
「うん」
夕方から夜
放課後のこの時間帯
俺と勇魚はいつもこうして空を、滑走路を見つめていた。
高校生の俺達の⋯⋯それが日常だった。
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