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1 戦天使アリエス
ザア……。
私、乙女天使アリエスは、血の海の中で片膝をついた。
周囲に散っているのは私の血ではない。先程まで戦った相手のものだ。
「ふう……はあ、はあ……」
うつむくと、顔の横を長い金髪がたれた。
血濡れた剣を握ったまま、しばし肩で息をする。
ただただ息が苦しい。あらい呼吸。ささくれだっている心。
もうここを動きたくない。ずっとこのまま敵さえこなければ……。
剣をさやに仕舞うことは出来ない。今はまだ。
私は顔を上げた。
敵の姿は見えない。
「今日も生き延びることが出来たようね……」
ひとり、安堵でつぶやいた。
辺りは見渡す限りの草原だった。
低く生えた緑の葉が、風に揺れている。
生きている者は私ひとり。
今のところ視界に見える敵の姿はいない。
流れ落ちる汗と、ほおについていた返り血を手でぬぐうと、私は再び歩き始めた。
すでに背の翼で飛ぶ体力は残っていないのだから。
夕暮れの草原の中を、ゆくあてもなく歩く。
もはや無用の長物となった天使の翼。
それは私の背の上でひらひらと、この世をあざ笑っているかのように、風と揺れていた。
いつからこんな世の中になったのだろう……。
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