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2 ルシフェル
私は名を呼ばれ、すぐに振り向いた。
いつの間にか、五メートルほど離れた場所に、灰色のマントを身にまとった、ひとりの青年が立っていた。
物腰柔らかそうな、気品のある雰囲気だった。旅人のような服装で、長いプラチナブロンドを、後ろで一本にくくっている。
「アリエス。やっと見つけた……」
懐かしそうに、彼がこちらを見つめる。
私は戸惑ってしまった。
「あなたはル、ルシフェルなの…?」
「そうだよ、アリエス。君が『時間』の力を持った事は、このイグドラシルの木が教えてくれた。そして今、世界で何が起こっているのかも──全て……」
灰色のマントを着た男、ルシフェルの周囲を一陣の風が吹く。
マントのすそがゆるやかに舞い、音もなく静まる。
彼は鎧を着ていないように見える。
しかしその腰には長剣が下がっているのを、私は見過ごさなかった。
警戒を崩さないまま、私はルシフェルと距離を取る。
「木が、教えてくれた?」
「この大木は、イグドラシルというんだ。時空を越えて育っていて、何もかもを記録している」
「ルシフェル……あなた魔界へ行ったのじゃなかったの…? なぜこんな所にいるのよ……。よりによってこんな時に……」
なぜだか、とてつもなく悔しかった。
運命という物に、自分がもて遊ばれているような気がしてならない。
「もらうわ! あなたの力を!!」
私は抜き身の刀身をふりかざすと、ルシフェルにむかって疾る。足もとまで届きそうなほど長い金の髪をなびかせて。
「──な!?」
ルシフェルは驚いた顔で立ちすくんだ。
彼の手は剣を抜いていない!
「はあっ!」
鋭い気合いと共に剣技をくり出す。ルシフェルは身を引こうとするが──。
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