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その時、イグドラシルの太い枝の間から、一本の短剣が飛んだ。
キィン!
私の刀身にその短剣が当たり、重い衝撃をひびかせる。
「……くっ」
私もルシフェルも後ろに飛び、離れた。
離れた場所から、もう一人の青年の鋭い声がする。
「ルシフェル様! 何をしているんです!」
私ははっと、側の木を見上げた。
枝の上に、一人の青年が立っている。緑の短髪に、新緑色の瞳は若々しくきらめいていた。
どうやら今の短剣は、この青年が投げたようだ。
「……手を出すなと言っておいたはずだ。フェレス」
ルシフェルが静かに言った。マントが再び風にたなびく。
「しかし、ルシフェ……」
「フェレス」
ルシフェルはどこまでも穏やかな口調だった。しかしフェレスと呼ばれた青年は、口をつぐんだ。
あれ?と私は疑問に思い、そして、はっと気づいた。
この二人、主従関係がある……?
他人はすべて「敵」の世の中で?
このラグナレクの中で?
──今まで私が戦ってきた者たちとは違う。理性失い、血に汚れた聖魔達とは──。
改めてルシフェルの姿をじっと見る。
理知的な表情からは、狂気の影は見えない。彼の深い灰色の瞳は、澄んでいた。
木の上の青年も、こちらの様子を真剣に見つめている。私を睨む彼も聡明そうだ。
今まで抜かれていなかった剣の柄に、ルシフェルの手がのびる。
二対一は、私の方が不利だ。
戦闘になれば、この人には勝てないかもしれない……。
胸の芯から冷えるような、そんな予感がした。
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