2 ルシフェル

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 その時、イグドラシルの太い枝の間から、一本の短剣が飛んだ。  キィン!  私の刀身にその短剣が当たり、重い衝撃をひびかせる。 「……くっ」  私もルシフェルも後ろに飛び、離れた。  離れた場所から、もう一人の青年の鋭い声がする。 「ルシフェル様! 何をしているんです!」  私ははっと、側の木を見上げた。  枝の上に、一人の青年が立っている。緑の短髪に、新緑色の瞳は若々しくきらめいていた。    どうやら今の短剣は、この青年が投げたようだ。 「……手を出すなと言っておいたはずだ。フェレス」  ルシフェルが静かに言った。マントが再び風にたなびく。 「しかし、ルシフェ……」 「フェレス」  ルシフェルはどこまでも穏やかな口調だった。しかしフェレスと呼ばれた青年は、口をつぐんだ。  あれ?と私は疑問に思い、そして、はっと気づいた。  この二人、主従関係がある……?  他人はすべて「敵」の世の中で?  このラグナレクの中で?  ──今まで私が戦ってきた者たちとは違う。理性失い、血に汚れた聖魔達とは──。  改めてルシフェルの姿をじっと見る。  理知的な表情からは、狂気の影は見えない。彼の深い灰色の瞳は、澄んでいた。    木の上の青年も、こちらの様子を真剣に見つめている。私を睨む彼も聡明そうだ。  今まで抜かれていなかった剣の柄に、ルシフェルの手がのびる。  二対一は、私の方が不利だ。  戦闘になれば、この人には勝てないかもしれない……。  胸の芯から冷えるような、そんな予感がした。
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