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思い出そうとしても俺の今までの記憶の中に彼の存在はない。
あんなイケメン、一度見たら忘れられないだろう。
彼の成績など知らないが、少なくともこの進学校に入学できているということは、頭は決して悪くないはず。
そして、あの整った顔にスラッとした高身長。天は二物を与えずなんて、誰が言ったんだろうか。すでに二物以上持ち合わせているじゃないか。
そんな彼が何故、あの時間まで残って俺に声を掛けてきたのか、そして何故あのような意味深な発言をしたのか…俺には考えても考えても答えは出なかった。
「鶴岡先生!指導案、ありがとうございました!」
その声にハッと我に返ると、ニコニコと満足そうに笑う香椎先生が俺に指導案を返そうとしているところだった。
「あぁ、すみません。少しでも参考になるような指導案でしたか…?」
恐る恐るそう聞くと、香椎先生は大きく頷いた。
「はい!とても!…というか、想定される反応とかも細かく書いてあって…私ももう少し練り直そうかなって思いました!」
「そうですね…、進学校だと自分が思いもしない反応が返ってくるかもしれないなって思ってとりあえず書いておいただけですよ。毎回、こんなに丁寧な指導案も作ってられないですしね。最初のうちだけです。」
俺はそこまでアドリブ力を持ち合わせていない。だからこそ、入念に計画して万全な対策を練っておく方が自分としても安心するのだ。
ただ、毎回丁寧にやっていても自分の時間が削られる。だから頃合いを見て言い方は悪いが、準備では手を抜くようにする。それが俺のやり方だ。講師の1年間で身につけた技とでも言おうか。
…と言うのも講師時代、真面目に毎回指導案を作っていたら体調を壊したのだ。そこから先輩教師たちに、上手な手の抜き方を教えてもらった。…本当に良い人たちに恵まれた。
「そうですよね…、でも最初は肝心って言うので、とりあえず最初のうちは指導案丁寧に作成します!お時間ありがとうございました!」
「いえいえ、無理はしないようにしましょうね。お互い!」
「はい!」
そう元気に返事をした香椎先生はそのまま自分のデスクに戻って行った。
フーッと一息つき、俺もそろそろ帰ろうかなと周りを見渡した。残っている教員は校長教頭に、数名のベテラン教師、そして新任式で挨拶をしたメンバーだ。
まぁ、やる事は一通り終わったし、帰っても問題ない。
「お先に失礼します。」
そう言って、そそくさと学校を後にした。
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