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外はすでに真っ暗。ただ、街中ではなくてもさすがの都内。外は行き交う車やビルからの光でまだ明るい。
時刻を見ると、19時半を回っている。
「…飯、どうしようかなぁ。これから作るの面倒だしな…。」
そう呟きながらコンビニへ立ち寄ろうかと思い立ったその時だった。
「鶴岡先生」
先生と呼ばれ、思わずビクッと立ち止まる。
…俺はすでに、この声を知っている。
ゆっくりと声のした方へ体を向けると…そこには楠木想がいた。
「楠木君…こんな時間にどうしたんだ?しかもまだ制服って…帰ってなかったのか?」
楠木の格好は制服姿。それに、下校した時に見た鞄をまだ持っている。
「…はい。先生がいつ来るか分からなかったので。その辺で時間潰してました。」
そう言って彼は近くにあるファミレスを指差した。
「時間潰してたって…楠木君が帰ったのは昼頃だろ…?そんなずっと…一体何のために…」
今日は全校生徒昼前で帰ったはずだ。…楠木は時間ギリギリまでいたが、それでもお昼少し前くらいには帰したはずだった。
「待ってたんです。先生のこと。」
そう言うと、楠木は俺に向かって1歩、また1歩と近付いてくる。
「く、楠木君…?」
じりじりと距離を詰めてくる楠木。その手が俺の頬に、触れた。
「…やっと、逢えた。」
びっくりして思わず固まってしまった。この手は振り払わなきゃいけない。そう、頭ではわかっているのに楠木の顔を見たら、そんな事できなかった。
楠木が、俺の目の前で、綺麗な涙を零していたからだ。
「ずっと…、あなたに逢えることだけ考えて生きてきた…」
そう呟く楠木の目には、まだ大粒の涙が溜まっている。
「楠木…君?もしかして俺のこと、誰かと勘違いしてない…?」
そう恐る恐る尋ねると、急にキッと睨み付けられ、思わず年下相手にビクッと肩を震わせた。
「俺が!あなたを見間違うわけないじゃないですかっ!どれだけ…どれだけ探したと思って…ってすみません。意味わかりませんよね。」
「アハハ…」
勝手に自己完結する楠木に対して、失笑するしかない俺。ぐるぐると頭で色々考えるが、何が何だか意味がわからず、すでに頭はパンクしそうだ。
「すみません、こんな遅くまで仕事してきたのに混乱させてしまって。」
俺の様子を察してか、今度は心配そうに顔を覗き込んでくる楠木。顔が整いすぎている…。
「あ、うん…まぁ、よくわからないんだけど…、とりあえず楠木君は家に帰りなさい。きっと親御さんも心配しているだろうから。」
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