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「…わかりました。」
そう言って俺からスッと離れる楠木。安堵したのも束の間、楠木は口を開いてこう言った。
「楠木想、17歳。貴方に心底惚れています。…絶対に振り向かせてみせるので…覚悟してくださいね。」
「え…?えと…?」
惚れてる…?え、待って、どういうこと…?
そう頭の上でハテナを浮かべている俺を見て、楠木は屈託なく笑った。
年相応の、そして心からの笑顔。眩しいなと、思った。
「じゃあ先生、また明日。授業で会えるの、楽しみにしています。」
そう言って、楠木は笑って帰って行った。
その場に取り残された俺は、何も考えられずその場から動けなかった。
今、自分の身に何が起こったのか、楠木に何を言われたのか…考えれば考えるほど意味がわからなくて混乱してしまう。
『あなたに心底惚れています。…絶対に振り向かせてみせるので…覚悟してくださいね。』
勘違いでなければ、確かに楠木はそう言った。
「惚れてる…?振り向かせてみせる…?俺、男だぞ…?」
昨今のことを考えれば、何も不思議なことではない。元々、同性愛者に対して偏見はないが…あの顔面である。彼女の一人二人いたっておかしくないあのイケメンに『惚れてる』だなんて言われても信じられるだろうか?正直、罰ゲームか何かしか思いつかない。
「ただ…あいつ、泣いてたんだよな…。」
あれは嘘偽りのない涙だった。それだけはさすがの俺でもわかる。でも何で…。
「って!?そもそも楠木と俺は生徒と教師だろ…何考えてんだよ、俺。男だろうと女だろうと恋愛はナシナシ…。頭冷やさないと…。」
そうだ、俺は新米教師。生徒との恋愛なんて言語道断。あっちが何を考えていたとしても、俺が断らなければいけない。今日は…、びっくりしすぎて体が動かなかっただけだ。
そう自分に言い聞かせながら、コンビニに寄り、美味しそうなパスタを買って俺は無事帰宅した。
パスタをチンしながら、持ち帰った仕事道具を広げた。
「あ、そうそう…軽く名前と顔一致させておかないとな…」
4〜6クラスの生徒名簿のページを開き、ザッと見通す。小学校とは違って、名前を覚える必要はそこまでないため、読めない当て字を読むなんてことはほとんどない。そこは高校教師で良かったと思う。
早速開いた3ー4HR。一際目を引く楠木想。圧倒的存在感だ。…というか、楠木だけ名前も覚えてしまった。
まぁ…あれだけインパクトのある出逢い方をしたらそれもそうかと思いながら、出来上がったパスタを取りに行く。
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