第1章 再会~鶴岡side~

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 何だか物騒な発言をしている楠木に対して、身の危険を覚える。 「あのなぁ、だからお前とは…」  食べない、と言いかけた時楠木を呼ぶクラスメイトの声がした。 「想ー!昼一緒に食おうぜ!」 「…今行くー!」  そう返事をした楠木に対してホッと息を付き、そそくさとその場から離れようとした。 「先生。」 「まだ何か…」 「昨日言ったこと、本気なんで。…またご飯誘いますね。」 「いや、だから生徒とは食べないって…」  そう言いかけているうちに楠木は友達の元へと向かってしまった。 「はぁぁぁ…。」 「わ!どうしたんですか?鶴岡先生。」  職員室に入るなり、大きな溜息をついた俺にびっくりしたかのように、香椎先生が声を掛ける。 「あ…すみません、何か凄い疲れて。」 「大丈夫ですか…?授業、やっぱり大変でしたか?」 「あぁ、まぁ…そうですね…。」  実際には授業ではなく、楠木に振り回されて…ではあるが、そんな事同じ教員に相談できるはずもない。 「昼休み、そんなに時間ないですけどゆっくり休んでくださいね。」 「…ありがとうございます。まぁ、午後の授業もないので、少しゆっくりします。」  そう言って笑顔を張り付けて返事をすると、それ以上香椎先生も声を掛けてこようとはせず、昼食を摂り始めた。  俺はというと、机に突っ伏した後すぐ我に返って、午前中の授業の確認作業を行った。  30分ほど経っただろうか。そろそろ購買も空いた頃だろうと立ち上がり、購買へ向かった。  案の定、人はまばらにしかいなくて、売れ残りの総菜パンが並んでいた。 「これとこれ、お願いします。」 「あら、新任の先生?若いわねー。こんな売れ残りのパンで良かったの?」 「はい。鶴岡と申します。いいんですよ、育ち盛りの高校生の余り物で俺は十分ですから。それに、高校生たちとパンの争奪戦なんてしたくないですからね。」  そう言って笑うと、購買のおばさんも笑っていた。 「私からしたら鶴岡先生も十分育ち盛りみたいなもんだけどね。はい、320円ね。」 「もうこれ以上大きくなってもいいことないですからね。」  そう言いながら320円を渡し、おばさんの「ありがとねー」という声を聞き、俺は職員室に戻った。  職員室で大して美味しくもない総菜パンを頬張りながら、授業の振り返りの続きを行った。 『昨日言ったこと、本気なんで。』  急に楠木の顔と、先ほど言われた言葉を思い出し、頭を振った。  集中しなければ。一生徒に振り回されてどうする。…あんな言葉、気にしたら負けだ。
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