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「ありがとう、ここで大丈夫。」
家に着くまでの間、つるはひたすら次郎の話を聞き続けた。…何なら、もっと聞いていたいぐらいだった。それぐらいに次郎の話は新鮮で、苦労を全く感じさせない次郎の話し方につるは引き込まれていた。
「おう!気ぃつけて帰れよ。」
そう言って踵を返す次郎の背中に、今日一番の大声をぶつける。
「ねぇ!!!」
くるりと振り返った次郎。少し驚いた顔をしつつも口を開く。
「なんだー!?」
つるは、急に恥ずかしくなって下を見る。それでも決意して真っ直ぐ前を見つめた。
「また、会いたい!!!」
その言葉を振り絞った。それを聞いた次郎は二カッと満面の笑みを浮かべた。
「おう!!!俺は毎日あそこにいるから、会える時、会いに来いよ!!」
「うんっ…!!わかった…!じゃあ、またね!!」
「おう、またなー!!!」
ドキドキと、いつもより早い心臓。もう次郎の姿は見えなくなっているのに、まだ鳴り止む気配はない。
「ただいまー…。」
「おかえり、つる、ちょっとどこまで行ってたわけ?遅過ぎる。」
「…ごめんなさい。荷物が重くて……。」
「言い訳はいいから、早くお前も手伝いなさい!」
「…はい。」
つるには自分の好きなことをする時間など無かった。母親は褒めることなど無く、いつも怒り口調。父親とは一緒に話す時間すら無い。
そんなつるにとって、次郎と話ができる日はとても貴重で、唯一自分が落ち着ける時間となっていった。
同じく次郎も、身分がこんなにも違うのに、自分のことを軽蔑せずに楽しそうに自分の話を聞いてくれるつるとの時間が、特別なものに変わっていくのにそう時間はかからなかった。
「なぁ、つる。」
おつかいの帰り道、二人で荷物を半分こしながら次郎が呼び掛ける。
「ん?なぁに?」
「…俺たち、大きくなったら結婚、できるかな?」
そう呟いた次郎の方を振り向くつる。目を見開いていたが次の瞬間、すぐに笑顔になった。
「できるんじゃなくて、するんだよ。私たちならきっとできる!」
力強い声に、次郎も恥ずかしさから逸らしていた目線をつるの方に向けた。
「…そうだな。つる…!」
「何?」
「…俺は、つるが好きだ。一生幸せにする。」
そう言った次郎は、やっぱりキラキラ輝いて見えた。
「うん…私も、好きだよ。次郎!」
そんな誓いを、子どもの頃に立てた二人。それからも二人は定期的に会って、お互いの想いを深めていった。
そんなある日、つるが14歳の誕生日を迎えた頃だった。
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