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「…思いません。」
「なら今後は…!」
「でも…!絶対に好きにさせてみせます。アプローチもやめません。まずは嫌いっていう感情から入ったって構いません。…実際、今そうでしょうし。」
辛そうに顔を歪める楠木。…何でお前がそんな顔をするのだ。被害者はどう考えても俺だろうが。
そう思いながら、楠木の顔を再度睨み付ける。それでも、楠木は俺から目を逸らすことなく続けた。
「例え、嫌われても…俺の目の前にいてくれるだけで、こんなにも嬉しいんです…。でも、それだけじゃ足りない。俺は、貴方が欲しいから。貴方に、好きになってもらいたいから。」
真っ直ぐ、愛の告白をしてくる楠木に対して、自分の胸がドクンと波打つ。
「…何度でも、貴方が鬱陶しいと思うくらいに伝えます。俺、楠木想は鶴岡聡先生が好きです。大好きです。…愛してます。これだけは揺るがない。何があっても、絶対に。」
目を逸らさずに、俺だけを見つめて…そんな歯の浮くような言葉を並べる楠木のことを笑うことなどはさすがの俺にもできなかった。
冗談だろ、と笑い飛ばすことなんて…できなかったのだ。
「…楠木、お前の気持ちはわかった。だが、こういう事はやめてくれ。俺のクビが飛ぶ。」
そう言いながら、自分の唇を指差した。
「…善処します。」
「お前な…、俺がここ辞めることになってもいいのか?例え、お前からされたと言っても未成年に手を出したのは俺ってことになるの、忘れんなよ。」
「……はい、辞められると困るので、我慢はします。」
何とも微妙な返答で、はぁと溜息をつく。…前途多難だ。
「…まぁ、いい。じゃあ楠木もういい加減帰れ。いつもより遅くなっただろうから。」
「えー、一緒に帰ってくれないんですか?」
「馬鹿言え、早速俺を辞めさせたいのか?」
「ふふふ…冗談ですよ。さようなら、先生。」
「…はいはい。さようなら。気ぃ付けて帰れよ。」
楠木を見送った俺はそのまま職員室へと急ぎ足で向かった。…まだ残っている教員もいるが、ほんの数名といったところだ。
残っている教員に挨拶をしながら、俺も早く帰ろうと思い、身支度を済ませた。足早に学校をあとにし、帰路の途中で今日あったことを反芻していた。
ただ、全て楠木に持って行かれた。今日の授業も、部活も、何かを思い出すとどこでも楠木の顔が浮かび上がってくる。
頭をブンブン振り、切り替えようと思った矢先…帰り間際の楠木の顔を思い出した。
『さようなら、先生。』
そう言って微笑んだ楠木の顔が…綺麗で、思わず見惚れてしまったなんて、死んでも本人に言わない。
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