第2章 接近~楠木side~

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 面倒そうな顔をしながらも、俺の恋バナを聞けたのが嬉しかったのか中西の声は少し弾んで聞こえた。 「あ、あとさっきはありがとね。」 「え?何が?」 「後輩にああやって言ってくれて。」 「ああやって…?あぁ、だってお前らは選手第一で動いてくれてるからな。感謝してるし。」 「…そう言われると照れるわね。」 「お前にもそういう感情あるんだな。」 「は?失礼ね!コーチに言ってあんただけトレーニングメニュー増やしてもらおうかしら。」 「お前…それは外道だろ。」 「知らない。褒めて損した。…早く練習再開しましょ。」 「そうだな。」  そんな他愛もない話をしながら、やっぱりサッカーは続けようと思った。あと半年、このメンバーで最後まで取り組みたい。…というか、サッカーならそれなりにいいところを見せられるだろうし。  そうだ、放課後以外にも先生と話す時間はきっとある。そう思い直して、俺は練習に臨んだ。  …そんな二人の様子を、遠くから鶴岡が見ていたなんてその時の楠木は知らない。  会えない。会えない。全然、会えない。  いや、正確に言うと全く話す機会がない。  授業中に絡もうとしてわざと声を掛けても、淡々と説明されるだけで会話は終了してしまう。それは別に俺に限った話ではないが、授業が終わった後に他の生徒と楽しそうに話す様子は見られる。…めちゃくちゃ羨ましい。  そう思って近くに行こうとするだけで、先生はビュッと職員室に戻ってしまう。…正直、辛い。確かに、避けられるようなことはしたかもしれないが、そんなあからさまに避けられたら俺のメンタルもやられる。  それだけならまだしも、部活では1年が本格的に入部してきたため、教えることが多くてそもそも忙しい。やっと部活が終わって体育館に向かえば、すでに電気まで消えて体育館はもぬけの殻。どうやら、最近部活自体少し早く切り上げているようだった。 「聞いてたか?楠木。」  急に名前を呼ばれ、ハッとする。 「お前がボーッとするなんて珍しいな。」 「すみません…」  担任に声を掛けられ、ふと我に返る。大丈夫だ。俺はまだ折れてはいない。先生のことを諦めるつもりもさらさらない。 「それじゃあ、来月GW明けにはすぐにテストが始まるから気張って行けよ!わかっているとは思うが、40点以下は補習。どの教科でもこれは共通だから頑張るように!」  その担任の言葉を頭の中で反芻した。『40点以下はどの教科でも補習』…。所謂、赤点というやつだ。俺はそんなものとは無縁の生活を送って来たから考えたこともなかった。でも、これは好機だ。  
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