11人が本棚に入れています
本棚に追加
「つる、お前が14になったから言おうと思っていたんだけど…。」
つるは、何か嫌な予感がした。
「…何ですか?」
「お前には私たちが決めた相手と結婚してもらう。準備ができ次第、すぐにでも。」
そう言われた瞬間、頭が真っ白になった。何を言われているのか、理解しようとも思わなかった。
「…嫌です。」
「何…?」
「嫌だと、言ったんです。」
つるが初めて、面と向かって母に対抗したために母は目を見開いた。そうして気付くと、つるの頬を殴っていた。
「あんたに選ぶ権利は無いのよ!あんたは一人娘で跡継ぎもいない!それでどうやってこの店を守っていくって言うのよ!」
母はヒステリックに叫ぶ。そんな母親を冷めた目で見つめる。
「…私は好きな人と結婚したい。その人が跡を継ぐんじゃダメなんですか…?それが無理なら、私はこの家を出ます。」
最近になって、自分の家のことは話したくはなかったが、次郎にそんな話をした。代々受け継いでいる店だから、跡継ぎが必要なのだという話を。
そう言っても、次郎は二カッと笑って自信満々に答えた。
『俺がいっぱい努力して、跡継ぎとしてふさわしい男になってやるから!つるは安心してくれよな!』
…次郎は、そう言ってくれた。跡を継ぐ、そう簡単なことではないだろうに、色々学んでくれていた。
「好きな人と結婚するだなんて、そんな甘い考えは捨てなさい。どうせあんたとは釣り合わない。」
「それはあなたが決めることじゃない…!私は約束しているんです…!絶対に違う人とは結婚しません。」
そう言い切ったつる。しかし、母親の怒りが収まることは無かった。
「…あんたは頭を冷やしなさい。店の手伝いも何もせずに部屋から出るんじゃないわよ。…どうせ、買い出しに行っている時にでも逢ったんでしょうし。相手も会わないうちに忘れるわ。」
「そんな事…!」
「黙って頭冷やしなさい。」
そう言うと母はつるの腕を強く掴んで、納屋に連れて行くとバタンと鍵を閉めた。
「食事は1日2回、朝晩持って行くから気持ちが変わったらすぐ言いなさい。…私だってこんな事したくないのよ。」
そんな声がどこか遠くから聞こえてきたような気がした。それでもつるはその声には応えずに、隅でうずくまった。
…絶対に諦めるものか、私は私の力で自分の好きな人と幸せになってやる。奏心に強く決めてつるは瞼を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!