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「…つるに、会わせてください。」
「つるは体調を崩していて会えないわ。」
「…納屋につるを閉じ込めているって噂、本当なんですね。」
そう言った瞬間、また母親の顔色が変わった。
「誰が言ってるわけ!?そんな話!!」
「…町中の噂ですよ。実の娘をそんな所に閉じ込めるなんて、みんなそう言ってますよ。」
そんな事は言っていないが世間体を気にする親だろう。もし、今会えなくてもつるをそんな劣悪な環境から出してあげることはできるかもしれない。そう思った次郎は言葉を続けた。
「町の人々は、つるが買い出しに来ないことも不思議がっているようです。それでそんな話までもが出回っているのでは?」
「…私の勝手よ。とにかく、あなたは二度とここには来ないでちょうだい。次来たら町奉行を呼ぶわ。」
町奉行を出されてしまうと、さすがの次郎にも辛いものがあった。次郎には優しい両親も、まだ幼い兄弟もいる。家族までも巻き込むことはさすがの次郎にも出来なかった。
「…わかりました。それでも、俺がつるを諦めることは無いと思っていてください。絶対に、つるを迎えに来ます。」
「…早く帰って。」
後ろ髪を引かれる思いでその場をあとにし、次郎は帰路に着いた。
それから、毎日のようにつるの家まで来た。勿論、敷居を跨ぐことはしなかったが、つるが元気なのか、納屋から出してもらえたのか、それだけが気になって何もできなくても訪れていた。
そんなある日…次郎の家に、客が訪れた。
「つるの母です。」
思いもよらぬ来訪に、次郎は少し期待した。あれから暫く経った。もしかすると、気が変わったのかもしれない。つるとの結婚を認めてくれるのではないか。そう思った。
「…あなたのご両親は?ご両親とだけ話をさせてちょうだい。」
「つるとの事なんじゃないんですか…!?じゃあ俺がいたっていいでしょう!」
「…お客様だ、次郎お前はみんなを連れて出て行ってなさい。」
「でも…っ!」
「いいから、行きなさい。」
「…わかった。」
次郎は弟妹を連れて、町へと出かけた。…というか、今つるの母親が来ているからつるの元へ会いに行けるのではないか。そう思った次郎は、弟妹たちに大人しくしているよう伝え、困ったら一番上の太郎が働いているところに行きなさい、と言い聞かせて全力で走った。
つるの家の前に着いた時には、汗が滝のように流れていた。それでも気にせず向かおうとしたその時だった。
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