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「…お前か?うちの娘にちょっかいかけてる愚民は。」
それはつるの父親だった。
「つるに、会わせてください。」
「無理だと言っている。…というか、お前が次来るのは娘に別れ話をする時だろう。」
「何言って…」
「次期わかるだろう。今日、家内がお前の家に行っただろう?それはある提案を持ちかけるためだ。」
「ある提案…?」
その言葉に引っ掛かりを覚えた次郎。随分と含みを持たせる言い方だった。
「そうだ…まぁ、帰ったらわかるだろうから。今日はお引き取り願いたい。」
「…一目でいいんです。一目でいいから、つるに会いたいんです…。」
「無理な相談だ。帰ってくれ。」
そう突き放され、次郎はまた何もできずにトボトボと来た道を帰る。…どうして好いている人と幸せになれないのか。理不尽な世の中に、次郎は頭を抱える。
そのまま残してきた弟妹たちを連れて家に戻ると、すでにつるの母親はいなかった。…代わりに、静かに下を向いている両親の姿があった。
「母さん、父さん…何かあったのか?さっきの人に何か…」
「よく聞きなさい、次郎。」
顔を上げた母親の顔は険しく、でも悲しそうだった。
「何…っ?」
「おつるさんと、別れなさい。」
何を言われているかわからなかった。
「え…何て…?」
「今日は遅いから、明日にでも…おつるさんに別れを告げなさいと言ったの。」
頭に血が上った。
「何で…!何で母さんたちにまで否定されなきゃいけないんだ…!何だよ、あの母親に何か吹き込まれたか!?俺とつるの幸せを、誰も望んでくれないのかよ…!何で、何で…!」
そう興奮しているところに、次郎の父から拳が飛んできた。
「…!?」
「目は覚めたか。」
「すでに覚めてる…!」
「お前はな、何もわかってない。俺らは所詮庶民で、相手さんは商人。まず位が違う。それなのに身の程知らずにも程がある。…と言いたいが。」
そう言うと、父は殴られてその場に尻餅をついた次郎の頬に手を当てた。
「…すまない、次郎。俺が不甲斐ないばかりにお前の幸せを考えてあげられなかった。つるさんの母親が俺たちに言ってきたのは…『お宅の支援をするから、息子さんから別れ話をしてくれ。』という話だった…。」
絶句した。やり口が汚い。…きっと、俺たち家族のことを調べて、貧困であることを知っての交渉だ。
「…それに、父さんも母さんも承諾したんだろ…?俺の気持ちなんて考えずに…。」
震える声をなるべく抑えるようにしながら恐る恐る尋ねる。…でも返ってくる言葉はわかっていた。
「ごめんなさい…ごめんね、次郎。」
「家族を少しでも楽にしてやりたかった…お前たちに、少しでもいい飯を食わせたかった…。」
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