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嫌だ。つるを他の人に渡すなんて、嫌だ。
そう、強く叫びたかった。
つるの全てが欲しかった。つるを、一生幸せにしてあげたかった。
でも、俺にはその夢は叶えられない。
「別に…もうつるのことは好きじゃないから、どうでもいいよ。」
自分が思っていたより、冷たい言葉だった。最低最悪だった。
もうこれ以上、つるに酷い言葉を掛けたくなくて次郎は踵を返した。つるの泣き顔も見たくなかった。
もう、つるも次郎の後ろ姿には声を掛けられなかった。…つるも、これ以上傷つきたくなかったのだ。
「…お邪魔、しました。」
そう、つるの母親に声を掛けた次郎は、足早に家をあとにした。
ありがとう、そんな言葉が聞こえた気がしたが、足は止めなかった。
つるの家を出てすぐに、次郎はしゃがみこんだ。…つるの哀しそうな顔が、目に焼き付いている。あれだけ愛を誓ったのに、俺はつるを幸せにはしてあげられなかった。悔しくて、悔しくて…どうしてあんな言葉を最後に掛けなければいけなかったのだろう。
…愛してると、それだけ言いたかった。
それから暫く経った。
俺たちの生活は確かに潤った。…それでも、次郎の心はちっとも晴れなかった。どんなに生活が潤うとも、つると別れた自分の心に色が戻ることは無かった。
そんなある日、つるが亡くなったと聞いた。
首吊り自殺だったそうだ。
今まで、つるがこの世にいるから何とか生きていたが、それを聞いて自分もつるのもとへ逝きたいと、そう願った。
現世では叶わなかった恋。せめて死後の世界では一緒になりたい…そう願った次郎に死への恐怖など無かった。
次郎は、つると同じ首吊り自殺をした。
ーーーーー
気付くと、白い世界にいた。
目の前には、得体の知らない生物。
「我は神。」
「…神?」
「そうだ、お前の望みは何だ?」
「望み…つるにもう一度会いたい。死後の世界では幸せになりたい。」
「それは無理だ、相手が望んでいない。」
「…な、何で…!」
「お前、彼女とどんな別れ方をした?思い出せ。お前の言った言葉を。」
そう言われて、ハッとした。そうだ、俺はつるが傷つく言葉を選んで振ったのだ。
「そう、だよな…一緒になりたいなんて思わない、よな…。」
「…だからお前にチャンスを与えよう。」
「チャンス…?」
「お前には、転生してもらう。前世、『次郎』の記憶を持ったままな。」
「て、転生…?」
初めて聞く言葉に、戸惑いを覚える。目の前にいる自称『神』とやらは何を言っているのか…さっぱり理解できない。
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