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3.魔導瘤という病
どこぞの国には『晴天の霹靂』という、予期せぬ驚きを比喩した言葉があるらしいが、私からすればそれは大した驚きじゃないと思う。
なぜならそれは目に見えた現象による驚きであるから。
視認出来ただけ、マシなんじゃないかと感じてしまうのだ。
私に巣食っていた病魔は、そんなに生ぬるくは無かった――。
ある朝、日課となっていた行動に異変が生じた。トーストを焼くのに使用していた火の魔法が、マッチの火程度に、それも一瞬しか発現しなかったのだ。
日頃、焦がしてしまうことはあっても、火力不足などということはあまり覚えがなかったし、すぐに異変に気がついた。
医師に診てもらうも異常は無し。肉体の健康はお墨付きを頂いた。明らかに私の胸元を見ながら「発育はちょっと遅れ気味かな」と言われたのには不信感を覚えたが、当時はそれどころではなかった。
続いて診てもらった魔導医師により、あっさりとその病魔は見つかった。
それは『魔導瘤』という魔法病の一種だった。私は内心、魔導なのか魔法なのかハッキリしろと思ったが、魔導医師のリリアーネさんがその美人を崩してまで表情を曇らせ涙を浮かべる姿を見て、ただ事じゃないのだなと悟った。
「――ケーナ、あなたはもう、今までのように魔法は使えない」
頭が真っ白になった。
その時された説明なんて記憶にないから、魔導瘤の知識は後から文献を漁って知ったものだ。
この魔導瘤の腹立たしいのは、魔力を失うわけではなく、あくまで魔力を発現させる能力に大幅な支障を来すという点だ。
要するに私には未だにグリーンゲーターたる魔力が宿っている。でもそれを肉体の外側に発現させる能力が、圧倒的に劣っているのだ。
身体が瓶で魔力が燃料だとすれば、私という瓶には上質な燃料がタプタプに入っている。しかし注ぎ口がほとんど開いていない状態と言えば伝わるだろうか。固く蓋をされ、針の穴程度の穴だけが開いた状態。頼りない穴からチロチロと燃料が一滴、また一滴。そこに火を点けたって、燃え盛れという方が難しい。
例えるならそんなところだ。その蓋をしているのが魔導瘤という、超常的で視認不可能かつ自覚不可能な『瘤』で、魔力の通用口を邪魔するニキビみたいなやつらしい。発症原因は不明。即ち治療法も確立されていないのが現状だ。
これがどういうことか分かるだろうか?
私は天才的魔力を誇るグリーンゲーター兼、落ちこぼれ魔法使いになったのだ。
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