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1.魔法国家ラスブルク
――才能というものを自己評価してもいいのであれば、私には間違いなく、才能があった。
あった……いや、正直今もあると自分では確信している。
小さい頃から10歳上の人達と比較しても、魔力や魔導学の知識で全く引けを取らなかったし、周りからも口に出して天才だと崇められていたのだから、あながち自己評価だけではないはずだ。
私の住む小国・魔法国家<ラスブルク>では、魔力こそが通貨、魔力こそが身分証と言ってもいい程に尊重されている。
だから幼少時、天賦の才だと祭り上げられていた私は、手ぶらで外出して両手いっぱいにお菓子を貰って帰るのが当たり前のような生活をしていた。
ラスブルクは専門的に魔法使いを育成し、冒険者に斡旋、派遣することで生計を立てている国家だ。だから魔力、即ち才能のあるものを優遇するのは、至極当然のことだった。
私の家があるラスブルク城下街には、至るところに魔力診断門が設置されていて、少しでも魔力を有するものが通ればその程度を把握出来るようになっている。
蔦で作ったブーケみたいな飾り気の無いアーチ状ゲート。しかし通過者の魔力に反応して、まるでイルミネーションを施したかのように輝く性質がある。
そこでゲートを『緑色』に点灯させることが出来れば緑色点灯魔道士と呼ばれて周囲から一目置かれ、優待を受けることが出来るのだ。
ゲートの判断基準はいまいち分からないが、単純な魔力の量だけではなく、その質というか、性格や善悪なども総合的に見ていると言われている。
以前に悪に堕ちた魔法使いが訪れた時は、どう見ても魔力はすごいのに『紫色』に門が点灯して、すぐに警備兵が駆けつけたことがあった。
私が見聞きしたことがあったのは、『青色(未熟)』、『黃色(凡庸)』、『橙色(有望)』、『緑色(希望)』くらいだったので、初見の禍々しい紫色には驚いた。
そんなことあるんだ、って。
という訳で、ゲートは能力の確認だけでなく街の平和にも寄与していると言っていいだろう。
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