0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「この学校とも、今日でお別れか……」
窓際の一番後ろの席に座り、澄み切った青空を見上げながら、坂田は独り言を口にしていた。
あと一時間もすれば、卒業式が始まる。漫画やアニメみたいな派手な青春イベントは起きない高校生活だったが、それでも何となく、しんみりした気持ちになってしまう。
普通ならば、高校生活は三年間だろう。しかし坂田の学校は中高一貫、つまり中学と高校が繋がっており、同じ学校のまま六年間だった。その分、思い入れも強くなる。
一人で感慨に耽っていると、
「何を溜息なんてついてるんだ?」
いきなり背中を叩かれて、坂田は咳き込みそうになった。眉間にしわを寄せながら、ゆっくりと振り返る。
後ろには、友人の長山が立っていた。
中学一年の一学期に席が隣同士になり、それ以来の付き合いだ。こういう関係を親友と呼ぶのだろう、と坂田は思っていた。
「いや、溜息ってほどじゃないさ」
「そうだよなあ。卒業式だからって、お涙頂戴っぽい出来事があるわけじゃない。第二ボタンください、なんて後輩も現れないからな!」
「気持ち悪いこと言うなよ、長山」
坂田は顔をしかめる。
彼らの学校は男子校なのだ。そんな後輩が現れたら、むしろゾッとするだけだ。
「わかってるよ。軽い冗談じゃないか」
ケラケラと笑いながら、長山は坂田の背中をバンバン叩く。今日の長山は、ずいぶんとテンションが高いらしい。
「そんなに高校卒業が嬉しいか?」
「だって、いよいよ学生時代が終わるんだぜ!」
二人とも大学進学が決まっている。高校を卒業したからといって社会に出るわけではないが、坂田にとっても「大学生は大人」という感覚だった。
だから長山の気持ちも理解できるのだが……。彼の「いよいよ学生時代が終わる」の意味がそれだけでないことも、坂田は十分承知していた。
少し憂鬱な気持ちになりながら、その点を口にする。
「例の約束か、長山?」
「そうだぜ! ようやくデート解禁! マミちゃんと会えるんだ!」
長山は満面の笑みを浮かべて、スマホの待受画面を坂田に見せつける。清楚なセーラー服に包まれた少女の姿が、画面いっぱいに映し出されていた。
最初のコメントを投稿しよう!