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コバルトブルー
トン、トン、トン。目的地を目指してリズミカルに階段を上っていく。
途中の踊り場で足を止め、壁に設置された大きな鏡を見る。
コバルトブルーのシャツワンピに同じ色のピアスとネイル。今日のわたしもあの人の色で染まっていて大満足だ。
思わず「えへへ」なんて気持ち悪い笑みをこぼしてしまい、慌てて周りを確認するもわたし以外誰もいなかった。
トン、トン、トン。あの人の所へ向かう為、また階段を駆け上がっていく。
トン、トン、トン。扉をノックする回数の正解がよく分からなくてとりあえずいつも3回鳴らしている。
「はい、どうぞ」
部屋の中から聞こえてきた声は心地いい重低音、わたしが堪らなく好きなあの人の声。
「失礼します」
毎度この第一声が上擦ってしまうのはドキドキと胸が高鳴り上手く喋られないからだ。
ノブを回して扉を開いていくと、ふわりとコーヒーの匂いが廊下へと漏れだしてくる。苦手だったこの匂いもすっかりと慣れてしまった。
「総合歴史学科3年の竹原です、レポートの提出と講義の質問に来ました」
部屋の中へと入って名前と来訪理由を告げると、こちらに背中を見せて机に向かっていたあの人──保住 明孝先生がこちらを振り返る。
「もう出来たのか。またお前が一番乗りだぞ、竹原」
そう言ってにっと口角を上げる先生の胸元にはコバルトブルーのネクタイが結ばれていた。
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