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報われない恋
人文科学部総合歴史学科中国史担当の保住 明孝先生にわたしは大学入学以来ずっと恋をしている。
初めての出会いは入学式後の学科に分かれての説明会。学科長でもあった先生は教壇に立つと堂々とそして朗々に緊張するわたし達へ語りかけてくれた。
不安がることはない、教員は全力でサポートする、だから一緒にがんばろう、そんな風なことを言って先生は優しく微笑んだ。その笑みにわたしは一目惚れてしまった。
隣に座る高校時代からの友人にこっそりと「かっこいい先生だね」と耳打ちすると、彼女は呆れた顔でわたしをみて呟いたのだ。
「でたー、志津子の枯れ専趣味。あんなんただのヒゲのおっさんじゃん」
友人の言う通り、先生は中年のおじ様で年の差は20歳以上。
どうにもわたしは昔からこうなのだ。幼少期に父を亡くして母子家庭で育ったわたしは父性への憧れがあるのか、好きになったり興味を抱いたりする異性がいつもかなり年上である。
友人は目を細めて先生をジィと注視した後、こそこそと続けた。
「ほら見な、左手の薬指。指輪してるんじゃん、既婚者だよ。分かってると思うけど、変な気起こさないでよね」
「……分かってるよ~」
わたしは恋はいつも報われない。
わたしが好きになった男性は大抵結婚をして幸せな家庭を築いている。わたしにはそれを壊す勇気も度胸もないので、ただ好きな人を眺めて過ごすのだ。
先生の一番の生徒でありたい、それ位なら許されるよね?
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