わたしとして今を生きる

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 わたしが何者にもなれなかった日を境に、舅はあまり喋らなくなり硬い表情のままのことが多くなった。  数日後、夫から施設に入れることも考えようという話が出た。筋力が衰えが顕著になり、スプーンを重いと言い始め、トイレに立つためにベッドから下りるのにも時間がかかるようになってはきていた。デイサービスでの様子なども参考にケアマネジャーから認定のやり直しをしてはどうかと言われたところでもあった。  夫から中学三年の時に母親を病気で亡くし、それからずっと二人暮らしだったと聞いた。結婚を決めた時、舅との同居をわたしから提案したのだった。舅は既に定年を迎えており、わたしが仕事を続けられるよう代わりに主夫をすると言ってくれたのだった。  言葉通り、家事のいくつかは舅に任せることができた。もちろん、平穏無事とはいかないこともあったけれども大きな問題にはならなかった。結婚して二十年余り、息子たちが健やかに成長し、大学生活を送ることができているのも半分は舅のお蔭だとの感謝もある。  わたしが舅の介護のために休職してもうすぐ一年になる。会社の規定を考えると、悩んでしまうのだ。このまま仕事を辞めてしまうという選択もないわけではないけれど……。 
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