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「ああ、ここに!」
台詞とともにジェイロスに手をつかまれて、アリッサは舞台へと引っ張りあげられた。
手はそのままに、腰を抱きよせられて微笑みかけられる。
おお、とどよめく観客のあいだに、ジェイロスの声が響きわたる。
「わが心の目が見抜いたぞ! そなたこそ余の呪いを解く麗しの乙女ダーナ。さあ、わが名を呼んでくれ、英雄王たるジェイロスと呼んでくれ」
発声法も演技も知らない。それでもアリッサは叫んだ。
「ジェイロス!」
わっと歓声があがった。
§ § §
芝居は終わった。
「くだらん。まったく腐抜けた劇だ」
ぶつぶつ不満をこぼすジェイロスをしり目に、アリッサは力強く何度もうなずいていた。
「そうよ、これだわ。これで行くわ! あなたも愛想よくしてよ、ジェイロス」
「は?」
不満そうに口もとをひきつらせたジェイロスを無視して、アリッサはさっそく仕事に取りかかった。
翌日、ヴィンセント劇場に手書きの貼り紙が出された。
――今宵のヒロインはあなたかもしれない。~当劇場付俳優ジェイロスがお待ちしております~
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