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「ひとたび『やる』とそなたに約したことだ。やってみせよう」
ジェイロスが堂々と舞台へとむかう。
開幕を察した観客の拍手が聞こえてきた。
「――ジェイロス!」
凍えたように動かない足で幾度かつまずきそうになりながら、アリッサはどうにか舞台袖へとたどり着いた。
その目の前で幕があがった。
舞台を見上げる観客の視線を一身に受けて、横たわった姿勢からゆっくりと体を起こしたジェイロスが演技を始めていた。
「うん――どこだここは? わが居城ではないのか? 騎士よ! わが忠実なる金枝騎士団よ、いずこへと去った?」
ヒロインがいないまま予定どおりに演じられるはずもないのだが、それにしても脚本の台詞とはまったく違う。
アリッサはぶるっと身震いする。
「ジェイロスったら、勝手に英雄王の演技を始めて……!」
といって、英雄王の古典史劇にもこのような脚本があるわけではない。
ジェイロスは、彼からすればわざわざ演じるまでもない英雄王として舞台に立つことで、ひとり即興劇をやりとげようとしている。
アリッサは固唾を呑んで見守ることしかできない。
「どうするつもりなの……」
舞台の上、せわしくあたりを見わたしたジェイロスが、ふと話しかけられたように動きを止めた。
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